かすみ荘 - 雑文:ヤクルトおばさん
[もどりゅ]

058. 【ヤクルトおばさん】 (2001.04.24)



・小学校の頃、ヤクルトおばさんが家に来ていた。初めはヤクルトを取っていたのだけれど、そのうちミルミルの方が栄養価が高いと言う事でミルミルを取るようになった。毎日一本、お腹に一本、ヤクルト、であるはずなのに、毎日一本、お腹に一本、ミルミル、になってしまった。ミルミルはヤクルトと比べると、甘さが低いので不満ではあったのだけれど、その様な事を言ってもお母さんには通用しない。仕方が無いので毎日ミルミルを飲んだ。もちろん、ミルミルが不味い訳ではなくて、ヤクルトの方が好きだったという事。

・そんなおばさんが毎月料金を徴収するのだけれど、その時にいつも50円の端数が出来ていていて、おばさんはお釣をお金でくれずにヤクルトを二本をお釣にしていました。ヤクルトを月一で飲めるチャンスなのですが、かすみには弟と妹がいます。姉として何度涙を呑んだ事でしょう。あの魔法の呪文、長女をおとなしくさせる言葉、「お姉ちゃんなんだから」のせいで、何回ヤクルトを飲みそこなった事か。

・ともかく、それなりに大きくなるとミルミルを取らなくなってしまったのですが、それは付き合っていたヤクルトおばさんがヤクルトおばさんという職業を離れたからでした。なので何時の間にかヤクルトとは疎遠になっていたのです。ところが、遥か時間が過ぎ就職した職場の隣に生命保険の事務所があって、そこにヤクルトお姉さんが来ている事を発見しました。お姉さんはだいたい二時頃に廻って来るようです。なので、こっそりヤクルトを買っていましたが、この事は秘密です。我が社では勤務拘束時間内の外出は認められていません、原則的に。だからお昼を外に食べに行ったり、コンビニに買いに行ったりしているように見える社員は幻です。ここは本社では無いので、ちょっとばかりそういう幻がいるのです。ですが、昼休みでもない仕事中にヤクルトを買うのは本当に度胸がいるのです。それでもヤクルトを、正確にはジョア白葡萄を買っていました。この白葡萄、アルコールが微量に含まれています。なんとかすみは飲酒して仕事をしていたのです。

・ヤクルトお姉さんはそんなかすみを不憫に思ってくれたのか、それとも売り上げを伸ばそうと思ったのか(多分後者)、我が部署の課長にヤクルト販売の許可を求めて来ました。だいたい二時頃、ヤクルトを売りに来てもいいですか、と。課長は公平な人間だったので(栗羊羹泥棒ではあったけれど)、ここは出張所で、本社ではその様な事を認めていないから駄目ですと答えました。お昼休みなら良いそうなのですが、お姉さんはお昼にはもっともっと人がいる会社を廻っているのでヤクルトを公式に買う事は出来ないままでした。

・そうこうしているうちに応援出向を命じられたので、職場を異動しました。何と売店でミルミルを売っています。外より10円安いのです。大人になったせいでしょうか、ヤクルトよりミルミルの方が美味しく思える様になっていました。ただ、売店には一つだけ問題があったのです。それは、売店のおばちゃんがとても無愛想で、かつ恐い人だったのです。売り子さんにあるまじきおばさんです。てめえで片付けろよ、釣りが一番面倒くさい、などという事をぽそっと言ったりもするのです。ので、いつもきっちりの小銭で物を買う様にして「すみません」とか「お世話様です」とかゆって買ってました。おかげでかすみにはおばちゃんもやさしくしてくれる様になりました。

・さらに、折角おばちゃんがやさしくなったのに、応援出向している先が本社移転しました。ですので、もれなくかすみもそこに通っています。ここではミルミルだけではなく、ヤクルトもジョアもビフィールも売っています。しかし、やはりおばちゃんから買うのが正統派ではないかと思い、最近自宅近くのヤクルト販売所を訪れました。前にはヤクルト自転車や、ヤクルトバイクが停まっています。営業所まできて、20人以上いるおばちゃん、お姉さんの前で「ミルミル一本だけ下さい」とはとても言えなかったので、結局ミルミル2ダースとジョアレモン2ダースを買ってしまいました。

・現在の夢はヤクルト自転車のおばちゃんから、ヤクルトを一本だけ買う事です。

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