かすみ荘 - 雑文:死を覚悟した時
[もどりゅ]

059. 【死を覚悟した時】 (2001.04.26)



・うみゅう。高熱に侵されながら、体温計を潤んだ瞳でかすみは見ていた。かすみが小学校三年生の時の話。学校を休んで寝ていたので、暇で暇で仕方が無い。水銀体温計で5分計測、出して確認、10分くらいぼけっとして、また5分計測、出して確認、と延々5、6回以上繰り返して、恐ろしい事に気が付いた。少しずつだが体温が上昇しているのである。朝は37度後半だったのに、38度後半まで上がっている。このままでは40度突破ももうすぐだ。

・しばらく寝ていると、おじいちゃんがやって来た。片手にバナナを持っている。

「かすみ、バナナを食べなさい。バナナは体に良いから」

・ぼやけた視界に黄色いバナナがぼんにゃりと浮かぶ。頭を枕から上げるだけでも物凄い頭痛がするのに、朝から食べたり戻したりしているのに、バナナを食べろと・・・。いただきましょう、大好きなおじいちゃんの為に、くらくらする頭を必死になだめすかし、何とかバナナを食べきるかすみ。戻しそうになる所を頑張って堪え、満足しきったおじいちゃんにありがとうー、とお礼を言う。おじいちゃんが去ってから体温を測ると39度を突破し、40度も近い。

・死ぬかもしれない。まだ小学生と言う若輩者でありながら、体温計が何故42度までしかないのかをかすみは知っていた。そう、人間は42度以上の熱を出した時、死ぬからだ。かすみが何で理科室の温度計は150度までなのに、体温計は42度までなの?と父に聞いたら教えてくれたのだ。確かに、100度のH2Oは沸騰するもんな、人間は沸騰しないよね、などど考えたかすみは、じゃあさ、何で42度なの?としつこく聞いて困らせたりした。後は強制連行されて図書館で調べさせられたけどさ。

・この調子で体温が上がっていったら死ぬね。そう覚悟した。覚悟はしたが、やり残した事が多い様な気がする。そういえば、学校の図書室から借りた明智君の本を読み終わっていない。これはいけない。怪人二十面相の大活躍途中で死んでしまったら、明智君のカッコイイ場面がないままではないか。宿題のドリルなんぞはやら無くてもいいとして、あ、そうだ、小学館の科学の付録の実験をしていなかった。あれはやらねば。タックン(とかゆうキャラだった、確か)もかすみを待っている。

・ずりずりと布団から這い出し、ベットから降りる。ランドセルから明智君の本を出してから科学を開く。実験には水が必要のようだ。汲みに行かねば。

・ここで記憶が途切れ、気が付くと病院にいた。右手にはなぜかプラスティックの試験管を握っていた。結局の所、肺炎になりかけの気管支炎という病名をいただき、ぶっちりと注射をされて熱は下がりました。41度は超えていたそうです。それにしても、運ばれてもがっちこと試験管を掴んでいた自分がちょっと情けないのですが、それ相応の大人になったんだねぇ、と思ったりする今日この頃。

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