かすみ荘 - 雑文:けどもやっぱり触りたい
[もどりゅ]

095. 【けどもやっぱり触りたい】 (2001.07.13)



○浅草にかっぱ橋商店街というのがある。かなり有名な場所なので、訪れた事のある方もいらっしゃるかと思う。情報系週刊誌にも書かれているのだが、実際に訪れてみると、何とも中途半端な場所である事が判明する。小売りもやっている業者向けの問屋街なのだが、休日に行くと休んでいる店が多い。バラエティー雑貨などを買うのには安くて良いのかもしれないが、個々の店自体は小さい為、かっぱ橋マップ(あちこちで貰える)を手に散策しなくてはならない。どの店も何か一本を売っている専門店である。包丁が欲しいなら俺んちに来いとか、包装用品ならここよとか、的屋の得物ならうちだぜとか。あちきも危なく業務用プロパン式たこ焼機、金35万円也(問屋特売価格)の導入を真面目に検討してしまった。いや、横浜の一般家庭では置かないだろお、普通。

○そんな専門店の中に何件か、食品見本専門店がある。レストランなどのショーケースに入っているあれで、ラーメンがお箸に引っ張られて宙に浮いているやつとか、実にうんまそうなトロとか、つやつやしたフルーツとか、とにかく考えうる食品見本やら、どんな店で使用するのか見当も付かない見本やらが並んでいる。お値段だが、実際にファミレスで食べられる価格の10倍くらいする。技術料が高いのか細かい細工のある食品は万単位になってしまっている。買う買わないは別として、あちきはこの食品見本というやつが大好きなのだ。色、艶、フォルム、本物よりこんなにおいしそうではありませぬか。うっとり。

〇小さい頃より、この食品見本というのに誘惑されたあちきは、これを触るのが大好きなのだ。レストランの入口でちょいちょい、とんかつ屋の店先でちょいちょい、パーラーのディスプレイでちょいちょい、突つく様に触る。精巧なクレープアレンジなどは実に触り甲斐のあるものだと思っている。クレープのひだひだ感、フルーツソースの広がりの表現、メロンの皮の網模様、ああ、楽しい。

○ところが、この食品見本触り遊びには罠も付いて廻る。そう、間違って本物に指を突き刺してしまう事があるのだ。作ったばかりの本物見本は、実に良い感じの艶を持っている事がある。それを見本と勘違いして、ぷすっと押した時には最早手後れ。指の先はぶっすりをオムレツにめり込んだりしてしまっている。しかも、指先にはケチャップが付着し、あちきの後ろを御通行中の皆様が通っていく。店の人にも皆様にもばれない様にそおっと指を抜かねばならない。

「お嬢ちゃんや、何をしているのかね」

○連れにはばればれである。あちきは両利きで左優先なので、楽しい見本触りは左手で行っている。ので、右手は自由で被害も被っていない。被害といっても自業自得なのだけど。状況をわかっていながらわざわざ声をかけてきた小姉ちゃんに、しーずーかーにー、とアクションを送る。

「あーあ、お店の人に悪いんだぁ」

〇すまぬ、すまぬぞ、お店の人。しかしながらこれも事故だと思ってくれ。確かに、あちきの指で疵の付いたオムレツを後で食べる人がいるとしたら、それは本当に申し訳ない。しかしながら、あちきと同じ様に指を突っ込む子供もいるやも知れぬ。その時と同じ様な豊かな気持ちを持って下さい。お願いします。

「姉さん、お茶でも飲んでいきませんか?」

「それはお詫びという事か?」

「その通りでございます」

○我々はふらふらと店の中に入り、ちょっとお高いお飲み物を注文した。あちきはどうかどうかあのオムレツが展示のみで食べようとする人がいません様に、と祈りつつ、んでもこの炎天下に放置したランチ見本を食べる人がいるのだろうか。いやいやいや、わからぬ、わからぬ。もったいないお化けと4時間放置ランチ食の恐怖を秤にかけた時に、どちらに傾くかは人の主観によって変わるだろうし。

〇一応自分の中にルールはあって、本物を触ったら負けで、他の人が見て本物と思う人が多い様な作品に触れたら勝ち。見本かな?と思う人が多いのを触るのは勝負とは関係ない趣味、としている。さすがに本物に指をぶっすり、というのは滅多に無い。

〇彼氏はあちきが食品見本を触るのを、悪い癖と見なしているので、触ろうとした瞬間羽交い締めにされたりもしている。もしも渋谷や池袋の店頭で、羽交い締めにされて「卑怯者、放せシャア」などとほざいている女性を見たらば、それはあちきかも知れません。見ない振りで通過して下さい。目が合うと酷い目に会うかも知れません。呪われる、とか。

○とはいえ、いくら羽交い締めにされようが、指を突っ込んでしまおうが、艶々の新しそうな食品見本を触る魅力には勝てません。いくら何でも何十万も出して触る為だけに見本購入という訳にもいかないし、第一?本物かも?というどきどき感を味わう事が出来ないのです。この先、あちきがもっと常識を認識するまで、この左手はあまたの食品見本を触り続ける事でしょう。

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