かすみ荘 - 雑文:雑文祭初参加作品
[もどりゅ]

120. 【台風】 (2001.09.26)

-勝手に雑文祭・参加作品-

○騒ぎがはじまったのは、雨雲が低くたれこめた真冬の土曜日の午後だった。

○せっかくおさんぽ友達が誕生日を祝ってくれると言うのに曇天ではつまらない。とはいえ誕生日をずらす訳にもいかない。雨は降らない方に賭けて傘は持たない。これがあちきのスタンスだ。降水確率90%でも、今、降っていなければ大丈夫な方に賭ける。コートを着こんで持ち合わせの横浜に向かう。雨は降って来ない。これはあちきの勝ちやも知れぬ。ふふ〜ん。

○横浜おさんぽ隊は総勢5名。横浜といってもメンバーが横浜に住んでいるだけで、あちこちに出没する集まりで、中学校時代からあちきが隊長を務めている。もちろん君臨はしているが、隊長だからといって何も変わらない。むしろ下調べは隊長の仕事だったりする。あちきの誕生日なので、激甘党の名に恥じないコースを通る事になっている。十番館、喜久屋、えの木亭でケーキとお茶、重慶、明揚で中華菓子とお茶。

「寒いよ、寒いよ〜」

などと弱音を吐く隊員を叱咤激励し、折角なので皆で港の見える丘公園で写真を撮る。海から暴力的なほど冷たい風が吹いてくる。

「寒いよ、寒いよ〜、人殺し〜」

「ミニスカートなんか着てくるからだよ」

「隊長だってミニなのに、さぶいぼ立ってるのに寒くないの?」

「鍛え方が違うなり。寒くてもミニの方がかっこいいもん」

「人間外め〜」

「ね、おじょうちゃん、ね、君の足に触らせてくれないか」

と、女性とは思えない程体格も良く、また、自他とも認める精神構造が男性のT−koちゃんがあちきに言った。あちきを含めて皆がざっと引く。

「何で」←ちょっと警戒。

「いや、寒くないって事は、触ると熱くなってたり、逆に気温以下に冷えてるのかなーと思って。いや、他の子でもいいぞ、誰か触らせて〜」

○しばし港の見える丘公園で自分以外の相手の足を狙うと言う、とんちきな鬼ごっこが繰り広げられた。カップル、大迷惑。当時、おさんぽ隊のメンバーは全てフリーであった。T-koちゃんも可愛い彼女募集中であった。ので、この激寒の中、ラヴラヴデェトなぞをしているやからが迷惑しようが我々には関係無いし、そんな迷惑気分も理解出来ない。友情は騒がしいものなのだ。わーっとやって来てわーっと騒いで、さっくり引き上げる、さながら台風の様なあちき達。

○いいかげん寒くなったので十番館に非難する。

「雪、降りそうだね」

「降ると良いね」

「この先まだ、甘いもん、食うのかよ。ま、今日の主役の言う事は絶対だけどさ」

「ん〜、あとね、カンフー屋行きたいんだけど」

あちきのいうカンフー屋とは、武術用の着衣や用具を売っている中華街の店の事で、此処に行けば有名な死亡遊戯のスーツも、伸縮自在の剣も、でっかい扇も、カンフービデオも、三節棍も買えるのだ。

「そういえばさ、かすみちゃん八卦掌やるとか言ってたよね、どうなった?」

「やってるよ。知らないおじいちゃんとかが教えてくれるよ」

「何処で?」

「早朝の山下公園。これでもうあちきもばったばったと大男を倒せるね」

「そんなもん実戦で役立つはずないじゃん」

「立つもん」

「立たないね。俺すら倒せないね。じじいの拳法なんて大したことないよ。映画じゃないんだからさ」

むぅ。納得がいかん。

○カンフー屋で兼ねてより欲しかったサイ(先の尖った武術用具。両手に1本づつ持って使う:ちょうど店にある最後の1個だった)を誕生日プレゼントとして買って貰い、小学生の様にご機嫌なあちき。調子に乗りすぎてそれを中華街の大通りで振り回そうとして止められる。やっぱ、あちきに買われるのを待っていたのね、ふふん、これがあれば実戦でも大活躍に違いない。と微笑んでいるあちきを見て、

「おじょうちゃん、念の為ゆっとくけど、それ、実戦には使えないよ。中途半端にあぶねぇし」

T-koちゃんの言葉に皆も肯く。うにゅう、あちきの考えを読むとは。こやつえすぱぁか?

○誕生日記念はまだまだ続くのだ。山下公園の氷川丸に大枚700円払って船の舳先にサイを持ってポーズをつける。下にいる友達が写真を撮ってくれるのだ。かっこいいぞ、あちき。しかも雪も降って来た。と、その瞬間、一緒に乗り込んだT-koちゃんが軽くあちきをはたいた。

「あにすんのぉ」

「いや、実戦」

その瞬間、甲板の鉄棒に脚を乗せていたあちきのバランスが崩れた。小さな悲鳴に素早く反応したT-koちゃんがあちきの腕を掴んでくれた、が、サイを取り落としてしまったのだ。

○サイは真直ぐに横浜の海に落ち込んでいった。

「かすみちゃあん、すげぇ、1本クラゲに刺さったよ」

確かに、落としたサイの内2本中1本が季節外れのクラゲを貫いている。買って1時間も経っていないのに、クラゲを攻撃して任務終了とは如何なものだろうか。

○その後、スピード仕上げで上がった写真を見ると舳先でチョップを食らっていて、心底驚いているという表情でかっこいいどころかお間抜けにしか見えない。あちきの本質を表した、本当の意味でのセルフプロデュースが出来た写真、といった様な意見を皆が言うので、これが本日の落ちになるらしい。そりはちょっといやん。

○その後、すっかりそれを忘れてしまった数年たってから、おさんぽ隊隊員の一人が結婚する事になった。あちきは他の隊員と披露宴で歌なんぞを歌わされ、かつスピーチをさせられた。あちきの渾身のスピーチで静かになる場内。そう、とても素敵なお友達なのです、と、何故か此処で笑い、しかも大爆笑。皆さんはあちきではなく正面を見ている。え、そこに何があるのだ?その視線の先には、そう、あの、あちきのへっぽこ写真が大きく映し出されているではないか。そういえば、さっきから何か出し物をしている人の写真をなんたらファンタジーとやらで流してはいた。が、よりによってあの写真を出さずとも良いではないか。こちとらドレスで決め決めなのに。主賓だって客だって、披露宴だからかっこいいのに、写真のあちきはお間抜けさん。

「素敵なお友達、沙良さまからのスピーチでした」

と司会者が言ってもまだ場内爆笑、笑いの渦、笑いのタイフーン。ちっくしょー、これをおにょれらの人生の門出の祝いにしてやるぅ!全く納得出来ないけどな!その後2次会でもからかわれまくりだったがな!いくらあちきが受けを狙うのが好きでもこれは嫌ぁぁぁ!

○そう、人生は割り切れるものばかりじゃない。

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