かすみ荘 - 雑文:大人気ないとは思いますが
[もどりゅ]

129. 【椅子取り攻防戦】 (2001.11.16)



○今年も風邪をひいたんである。しかも、ばんばん高熱が出るやつで、ここまで出れば熱の奴も本望ではないかと思われるくらい、がんがん汗をかいてしまいました。頭痛で起き上がるのも億劫だったのですが、とにかく早い所治してしまおうと思って、病院に行ったのがそもそもの始まりでございます。

○あちきが病院に行く場合、先ず二択で選ぶ事が出来るのですが、一つは、仕事の合間に病院、社内のクリニック。もう一つは、休暇を取って今年の風邪事情の情報収集、大学病院となっているのです。他にも個人診療所などの選択もあるのでしょうが、あちきの内科のカルテがあるのは、会社と大学病院なので新しい所を開拓しなくてもいいかな、と。

○んで、社内の診療所の利点として、就業時間中に、つまり、お銭を貰いつつも、病院にかかれるというとてもお得なシステムがあるのですが、いかんせんあんまりかかっている人が多くなく、ちょこちょこ顔を出しているあちきとしては、つい最近も連続診療を受けているので、ちょっと心苦しい。しかも、しっかり病院と同じ点数で計算され、当然お金も請求される訳で、なのに先生がどうも不親切な気がする。いくら企業と契約でもいいじゃないか、もちょっとにこっとしてくれても。そんでもって、社内の診療所に行くと言う事は=行っている以外の就業時間は仕事をしなくてはいけないという事になるわけですな。そりゃ、会社もいくらあちきが駄目社員の給料泥棒だとしても、いるからにはまあそれなりに働かす訳で、本当に具合が悪いのに診療所の為に出社するのはやはりちょっとおかしい。

○そんな訳で、今回ぐたぐたの体を引き摺って、大学病院にはせ参じた。もう、仕事したくないの。コンマ何ミリの計算なんてしたくないの。くすんくすん。ああ、こうやって目を閉じると目蓋が激熱。けれど体は激寒。

○内科受付に診察券を出して、空いている待合席によろよろと座る。うふふふふふ(壊)。涙目で周囲を見回すと、とっしょりの皆様ががっちょりいらっしゃて、これじゃぁあちきの診察は一時間待ち以上ですな、と思いつつ、持参の麦茶をすする。風邪には水分補給が大切なり。読みたくは無いのだがとりあえず本を開く。寝ちゃって呼ばれたのに気づかないと困るからだ。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

ついに幻聴まで聞こえてきたぜ…って、そんな訳なかろう、あちきよ。ゆっくりと視線を上に上げると、知らないおばあ様がいらっしゃった。

「ちょっと席を譲ってもらえないかしら?」

は〜う〜?仲の好い人の近くに座りたいなりか?

「どちらの席と変わればいいのでしょうか?」

おばあ様はちょっと困った顔をした。

○この時、あちきの脳は正常運転ではなかった。回転率は異様に遅く、此処まで来るのに駅の改札で定期を抜き忘れて引っかかってみたり、しかもそれが恥ずかしくなかったり、朝ご飯を食べたかどうか忘れ、診察券を出さずに銀行のキャッシュカードを出して看護婦さんを当惑させるなどという誤作動を行っていたのである。もしも、いつものあちきであれば、瞬時に怒りぽいんつにヒットし、

「てめぇ席から退けだと、ゴルァ、てめぇの目は節穴か。要らない目ならくり抜いて銀紙でも張っとけ。俺様はなぁ、具合が悪くて来てんだよ。てめぇに譲る席なぞねぇな」

なぞと、吠え…ませんね。流石に。でもきっと、

「私も風邪で体調を崩していて、仕事を休むほどですので、今立ち上がると倒れますわ。申し訳ございませんが、他を当たって下さいます。おほほほほ。パンが無ければお菓子をお食べになって」

なぞと、言い…ませんね。とにかく、譲らないぞ、という気構えを見せつつ戦闘態勢に突入するのですが、そうもいきません。へろへろなのですから。

○へろへろ脳みそのあちきではありますが、目の前にいるおばあ様の希望(内容は不明)を叶えてあげたい、と親切にも思ったのですよ。自分的に。

「変わるんじゃ無くてね、席を譲って頂戴。私が座るから」

「え〜と〜、では私は何処に座ればいいのでしょう?」

「若いんだから立っていれば大丈夫よ」

大丈夫ではありません。大丈夫だったら仕事に行っています。行きの電車で座り込んだりしていません。今の状態で立てと言うのであれば、支えてくれる人を要求します。その際、カンカンノウを踊らされても文句はいいません。ええ、ええ、きゅうのれす。

○なんぞとゆっくりと考えておりますと、おばあ様は反応しないあちきにちょいとばかり痺れを切らしたのか、

「あいたたたたたた。腰が、腰が」

とおっしゃいます。そっか〜、腰が痛いのかぁ、大変じゃのう。そんであちきの代わりに座りたいのですな。うみゅ、うみゅ。

「ちょっとお嬢さん、譲っておあげないさいな」

あちきの隣にすわっているおばあ様も立っていらっしゃるおばあ様の味方の様です。うんじゃ、譲りますか。かんかんのう、きゅうのれす。

○と珍しく怒りもせずに席を立とうとした瞬間、視界が斜め、横、と変化して、

?ぽて?

「大丈夫ですか?あなた大丈夫?どうしたんですか?痛いの?苦しいの?トイレ?」看護婦さんがあちきに声をかける。

「だからわしは止めろと言ったんだ」お前は誰だ?

「私じゃないわよ、私は悪くないわ」うんうん、よくわからないけど、悪くなくても良いです。

「何とかさんじゃないか、いったいこのお嬢さんはどうしたんだ?」ほほう、病院友達ですか?

○気がつくと、あちきは椅子の真下に落下していたらしい。立とうと思った瞬間めまいがしたが、床とお友達になるとは思わなんだな。にしても、病院の床は倒れても大丈夫なのであろうか。多分、あまりだいじょびくない。

「えーと、ちょっとめまいがしただけです。トイレも大丈夫です。あ、私立ちますんで」

「何に言ってるの。座ってなさい」

「いや、何かおばあさんが座りたいって」

○その時のおばあ様の表情は、筆舌に尽くしがたいものでございました。

「わ、私、そんな事言ってないわよ」

「いや、わしゃぁ聞いたよ」

しかも敵までいるし。

○今考えてみれば、おばあ様に悪い事をしたものです。残り僅かな寿命が大変な事になっていたらどうしよう。どうしようもないけれど。とはいえ、あちきはそのまま診察室脇の看護婦さんのいる待合所に連れて行かれたので、多分おばあ様は座れたのではないかと思う次第でございます。

って事は負けか。

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