かすみ荘 - 雑文:そんな必至に持たなくても
[もどりゅ]

180. 【つり革攻防戦】 (2002.05.14)



○みちみちに詰まった東急東横線。今日も仁義無き戦いの火蓋が切られた。戦いの勝者に与えられるのは、唯一つのつり革のみ。それでも、嗚呼、そりでも、戦士達は戦うのだ。

○今日の東横線はきちきちに込んでいた。みちみちに人が詰まっていた。きゅむきゅむの閉塞空間で、あちきはぴっちりと人の隙間にはまっていた。何とか小説を読むスペースは確保出来ているものの、足元はおぼつかず、左足に至っては、つま先しか電車の床に設置していない始末。急ブレーキなぞかけられようものであれば、「はうぅぅぅぅぅ」と悲鳴をあげながら、人間将棋倒しの中に埋もれてしまい、事によってはやばい事になってしまうのではと思う程である。つうか、少しは考えろや、東急電鉄。確かに、これ以上電車を増やす事も、車両を伸ばす事も出来ないのは解る。が、人間を死すら感じさせるほど詰め込むのは如何なものか。そりとも、実際に人死にが出ないと対応しないつもりなのであろうか。詰め込めば入れられると思うのは間違っていないか、某駅の学生班の皆様よ。

○そいえば、最近オフピーク通勤のポスターがあまり見られなくなった。あれほどあちきの神経を逆なでするポスターは無かったのだけれど。何が時間をずらしてらくらく通勤じゃ、ゴルァ。時間をずらせる仕事とずらせない仕事、始業時間が決まっている学生さん、労働者の皆さんに対して、時間をずらせだと、出来る訳無かろうが、うがぁ。そゆ提言はでっかい企業のトップにしやがれ、なのだ。いや、でっかい企業じゃなくても良いけれど、とにかく始業時間を決める権限を持った方になさらないと、ポスター代を無駄にするだけである。どうしてその時間が混むかと言うと、その時間に合わせて仕事をするのが効率的であるとなっているからだ。企業というのは単独では成り立たないし、関係ある他の会社が9時に仕事を開始するのであれば、自分のところも9時に開始した方が効率が良い。だからどこかの大手企業が時間を変えたとすれば、それに合わせて変える企業もあるだろう。結局オフピークというものはあまり広まらないのだ。どうしても通用させたいのであらば、この会社はこの時間、こっちの会社はこの時間と均等に時間分けした規則を国家権力でもって想定し、破った企業は社長以下経営陣を市中引き回しの上磔獄門くらいの刑罰に処するれば何とかなるやも知れぬ。ま、そんな政府あっという間に解散ですけれども。

○ともかく、あちきは基本的に早い時間に出て、早い時間に帰るというのをスタンダードだと思っている。何故ならば、帰宅してからの時間を有効に使えるからだ。朝、10時出勤の場合、6時半に起きたとすると9時までの出勤時間と帰宅後の7時半から就寝までの11時の中途半端に別れた時間に自分のやりたい事や食事、入浴などをしなくてはいけないが、8時半に出勤すれば6時から11時までのまとまった時間を取る事が可能であり、ロス時間も少なくなるのだ。素晴らしきかな、早起き(さほどでも無いが)。素晴らしきかな、昼型生活。

○そんな理由で、あちきの出勤時間は通勤ラッシュにぶつかる。特に、ちょっと遅れて9時出勤の日には、みちみちのむちむちのもきゅもきゅな電車に乗り込まなくてはならない。一応女性の多い戸口を狙って乗車するが、駆け込み乗車も当たり前、当たり前、当たり前ぇぇぇ、なので油断はならない。今日もきゅむきゅむな戸口でもしかしてぎりぎり乗れないかな、と思いつつも戸口にアタックをかけていたらば、後ろから飛び込んできたサラリーマンの人があちきを押し込んでくれた。ま、その人は自分が乗車する為に必至だったのだけれども。

○そうしてあちきは微妙な電車の揺れや、人の動きによって、丁度戸口の前のつり革の真下にあちきのポジションが決定した。先に書いた様に左足はへろへろしていたけれど。すると、急にあちきの後方右手側から、にょこっと一本の腕が突き出された。紺色のスーツの袖に包まれたその腕の持ち主を窺い知る事は出来ないが、その手のひら、手の甲の感じからするとある程度お年を召していらっさるのではないか。しかしながら、その手は空を切った。電車が揺れたので、つり革もゆらりっとその手を逃れたのだ。うみゅ、捕獲失敗。すると、今度はあちきの左手やや後方から一本の腕が突き出された。その腕を包んでいる服は、まごう事なき女性物である。が、その手は、何故か目測を誤り、あちきの左即頭部やや後方に軽くヒットしてのである。
 「あ」
あ、じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!謝れ、あちきに謝れ!あちきの超高性能妄想電波受信頭脳にその不遜な手をぶつけ、もしもこの超高性能妄想電波受信頭脳のシナプス様に傷でもついたらどうしてくれるのだ、のだ、のだ、のだ。

○などと、自分でも訳のわからない苦情などを思いついてみたりしていたが、どうやらあちきの真上のつり革は二人の人物に狙われているらしい。大変だ。つり革を巡って壮大な、みっしょんがいんぽっしぶるので、その真下に位置する、あちきの偉大な脳髄を収めた頭さんは危険が危ないのだ。あちきの脳髄の偉大さは、過去のあちきの担任の先生方の言葉でもって表現されている。
 「初めて話をして以来、4組のトットちゃんと先生は呼んでいました。そのkasumiちゃんが世間と折り合いをつけられる様になって先生は嬉しい」
 「いつもへ理屈という理屈を掲げ、それでいて表面だけは納めようとする悪いくせがありました」
 「自分の興味がある事は通常では考えられないほどの情熱を傾けていましたが・・・」
 「次に何をするか全く解らないお嬢さんです」
 「優しいかと思うと、次の瞬間、ぞっとするような事をするんです」
そんなあちきの偉大な脳髄。そりをたかがつり革の一本の為に危険に晒さねばならない。しかも、この混雑では、伸びてくる暴徒の手から逃れる事もあたわざるなりき、なのだ。

○恐らく、あちきの後ろでお二方はお互いを認めたのではないか。きっと直面している敵の顔も認識し、思いも新たに、この戦いを征し様とでも思っているのではないか。何故ならば、二つの手が両側から、がっちりとつり革を掴んだからである。あちきはこれまでの人生の中で、つり革の定員は一名だと思っていた。時々一人の人間が一つのつり革を両手で持つ事はあるけれども、そして、その不安定な体勢でぶらんぶらんと前後に揺れて楽しそうにしている事もあるけれども、それは一人の人間がやる事であり、二人の人間が、各自自分の片手を一つのつり革に掴むというのは見た事が無かった。いや、待て、昔、カップルの人が手を重ねていた事があったな。いや、でもあれは、上に重ねた彼の方はしっかり反対の手で別のつり革を持っていたのでやっぱり状況が違うのであろう。よしよし、つり革の定員一名説、続行。

○それにしても、どうやら両者ともにそのつり革を自分のものにしてしまいたいらしく、つり革は奇妙な動きをしている。両方から力がかかるからだ。その際、あちきのゴージャスなヘアースタイルがばんばん乱れまくっている。しかも、肘が何回かヒットしている。何で、あちきの頭を巻き込んで、戦っているのだ。あちきの頭の上は戦場で、あちきの頭は戦いに蹂躙される民間人か。不愉快なり、不愉快なり、不愉快なりぃぃぃ。
?死なす。折角まとめた髪をばさばさにするやつを死なす。私の頭を殴るやつは見つけて暴行罪で訴えてやる。呪ってやる。呪って死なす?と心で呟くあちき。

○ぴた、とあちきの上の争いが止んで、両方の手がそーっとつり革から離れた。あちきの心の声が届いたのであろうか。そりとも神様がこのいたいけな子羊を救って下さったのだろうか。と、周りの人があちきを見ているのに気がついた。何故かあちきの視聴率が上がっている。うみゅう?もしかしてあちき、声に出していたのかしらん?死なすって?いやん、朝からレディがこんな言葉を吐いちゃいけないわ。うふ。でも一応加害者を確定して、あちきの様な人もいるからもっと周囲を見て電車に乗る様に注意してもらわないと。

○ぎぎぎと無理やり頭を回して、スーツと服で覚えている男女二人を発見する。恐らく、あちきのほっそいお目々はとてつもなく恐かったに違いない。無言で頭を下げるお二方。そう、そりならばあちきも大人なのでこれ以上騒がないのだ、といっても声に出したつもりはなかったのだけれど。

○こうして、ぷち世直しを終了し、電車から降りるあちき。きっと物凄く男前であったに違いない、いや、女だけど。ただ、今回の事で自分も注しないといけない事が一つ。
 ?心の声をぽんぽん口にしてはいけない?
そして、解ってはいたがちょっと哀しかった事が一つ。
 ?切れ長一重のあちきの睨みは異様に恐いらしい?
人間、日々、学習である。

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