かすみ荘 - 雑文:じゃい先生の歌でもなる
[もどりゅ]

186. 【賃貸物件香りつき】 (2002.05.27)



○再三再四書いているのだが、あちきのお付き合いしている彼は某ぷにぷに雑文書きの人である。本人がぷにぷにしているのではなく、ぷにぷに形状を見ると「萌え〜」と絶叫してしまうのである。事実、あちきが隣にいる時に、某ぷにぷにアニメを鑑賞していて「は×ちゃん萌え!」と言い放ち、「萌え?」と聞くと慌てて取り繕う様に、「すみません、いつもの癖で」と言ってしまい、以来、あちきに「×なちゃん萌え〜」とからかわれる日々を送っている。

○そんなぷにぷに雑文書きの人の家にお邪魔しているのだけれど、どうしても許せない事があったのだ。そりはあちきにとってとてもとても許せない事である。どりくらい許せないかと言うと、某週間少年漫画誌で連載されていた某神聖モテモテ王国なるマンガが再開されない事位、許せないのである。どうして再開されないのかしら、モテ王。あんなにシュールで面白かったのに。ねえ、メガネスキー。

○極一部にしか解らない様なネタは置いておいて、とにかく許せないのである。雑文書きの人は自炊をしているのだけれど、その、悠々自炊ライフの一環で、糠床を作成し、糠漬けを作っているのだが、それが許せないのだ。

○遊びに行った際に、人様の家で夕飯を作るという作業をする事になったあちきは、調味料のありかを聞き出したのち、その戸棚を空けた瞬間、表現すら出来ない香りに圧倒された。お醤油、お米、味醂、などといった調味料とともに、戸棚に収まっていたその糠床は確実に腐っているとしか思えない異臭を放っていたのである。もしも此処が駅であれば、異臭騒ぎとして特殊部隊が呼ばれ、酸素マスクを装備した部隊が、速やかに異物を撤収、一部採取、焼却処分となって当たり前であろうけれど、此処は東京の一角の個人宅であるからして、糠床は堂々と戸棚に収まっていやがったのである。

○我が家にも糠床と言うものは存在しているが、香りが全然違うのである。あちきは糠漬けが好きではなく、自宅の糠床をかき混ぜる事はあっても、口にはしない。かき混ぜた日の仕事中、考える時の癖で唇に手を当ててから、香りでいやんな気分になっていたりしていたのだが、それとは全く異質の香りがするのである。我が家の糠床の香りが嫌ではあるが食品として認められる香りであるのに対して、雑文書きの人の家のそれは、腐っている為食べるのは避けるべきな香りなのである。糠床は香ばしい糠の香りでなくてはいけないのに、粘膜を刺す酸っぱい刺激臭がするのだ。あちきの恐いもの見たさセンサーが蓋を開けろと囁き、ついついうりゃ、と開けたものだから、異臭は部屋中に広がった。慌ててベランダへのサッシを開けて貰う。中には、何故か水分を吸収させる為の布をも入っておらず、異常なほど水っぽい糠床が詰まっていた。

 「これ、何で上に布巾とか載ってないなり?」
 「?上に何か載せるの?」
 「水分が出るのと空気に触れすぎない為に、毎回水で洗ってきっちり搾ったタオルなり布巾を載せるですよ」
 「ふーん。自己流だから(笑う)」
 「気のせいかもだけど、人参ががじがじ。これって入れる前に塩を擦り込んでる?」
 「何で?入れれば味がつきますよ」
 「・・・。生姜とか入れています?」
 「食べるの?」
 「毎日朝晩、よーく底から全部入れ替えるみたいにかき混ぜてます?」
 「え?毎日混ぜるの?」
 根本的に作り方、使い方が間違っているのだな。うみゅみゅ〜。

○腐っているというあちきの抗議を笑顔でいなし、「でも食べてるよ」と、とんでもない事をほざきやがる雑文書きの人。そりはね、胃腸が丈夫だからではねいでしょうか。しかも、その香りは戸棚にも付着してしまっているのである。酸っぱい刺激臭のする戸棚。此処は賃貸マンションであり、もしもあちきが大家さんであれば、この香りだけで出て行く時に敷金を鐚一文も返済するのを拒むであろう。

○ともあれ、料理をするからには調味料を使うのは必須であるからして、どうしてもその戸棚を開けなくてはならない。開ければ物凄い刺激臭がする。最終的にあちきの行き着いた結論は、糠床を廃棄するであった。しかしながら、家主はこの基地外糠床を愛していて、丹精込めて作成した(丹精込めて腐らせた)と言う。
 「うみゅう、この糠床は腐っているです。あちきが作り直します。あちきの家の糠床から種を持って来るです」
 「えー、折角作っているのに。美味しいよ、これ」
 「そりは雑文書きの人の鼻が利かないからです。それにその味は間違っています」
 「えー」
 「どうしても作り直さないというのならば、この家に遊びに来るのは止めます」

○こうして、快く作り直す事を快諾していただき、早速あちきの家の糠床から150グラムほどの糠みそを採取。そりを持って雑文書きの人の家にお邪魔した。新しい糠も購入し、塩水を沸かす。後、自然に温度が下がるのを待っている間に、心を込めて、別れを惜しんでいただいた。その場所が、香りが部屋に広がるのを嫌がったあちきのせいで、ベランダになったのはまあ、小さな事故である。雑文書きの人が背中を丸めながら、糠床をポリ袋に名残惜しそうに手で一掬い、一掬い捨てているのは中々哀愁漂う姿であった事をここに書いておく。その際、本当に捨てちゃうの?といった問いかけの色も瞳に見えない事も無かったが、そりは黙殺した。

○綺麗さっぱり中身が無くなったが、異臭が染み付いている糠みそ樽をばんばん洗い、タオルで拭く。やはり異臭は取れないが、諦める事にする。実際はこの樽も捨ててしまいたいのだが、雑文書きの人がケチなので、この樽を捨てると宣言した場合、樽を抱えてご不浄(トイレである、念の為)に篭って樽を守るのも辞さないやも知れないので、諦める事にする。そのうち新しい糠床の香りと、発生した善玉乳酸菌の効果で消えてゆくに違いない。

○糠を投入し、塩水を少しずつ入れて混ぜる。程よい柔らかさになった所で、持参した糠みそを入れる。こうすると、既に良い感じに出来ている乳酸菌が増えていくのだ。殺菌、風味付けを兼ねた、鷹の爪と生姜を入れて、要らない野菜クズを入れる。固く絞ったタオルを上に載せて出来上がり。1週間ほどすればちゃんと野菜を漬けられる糠床の完成である。糠漬けの味は糠床で繁殖している乳酸菌から来ているので、ちゃんと酸素を送り込まないと腐ってしまうのだ。腸の中だって、乳酸菌が弱ると悪玉菌が繁殖して、体調を崩してしまうのだ。だから、毎日朝晩、かき混ぜなくてはならない。少なくとも一回は混ぜなくてはならない。其処の所を噛んで言い含めるように説明すると、
 「でもね、明後日から出張だから律儀なM谷師匠に頼んでおきます」
と言う。確かに、腐ったものを愛用していた雑文書きの人よりも、ルームメイトであり、前の糠漬けに近寄らなかったM谷師匠の方が安心であろう。うみゅ、重畳重畳、神様も粋な計らいをして下さる。

○さて、その後の糠床であるが、まだ野菜の水分が丁度良く浸透していない為、少々塩味が濃いらしいのであるが、前の糠漬けとは全然違う糠漬けになっているそうである。唯一残された問題であるが、未だに戸棚を開けると異臭が漂う事である。M谷師匠が強力脱臭剤を設置すると宣言しておられたが、あちきはあちきで消臭除菌スプレーを使ったという事実もある。この賃貸物件は12月に契約が切れるそうである。M谷師匠は来年華燭の式を迎えられるそうであるから、恐らく更新はしないであろうという話がある。とすれば、12月までこの異臭は残っているのであろうか。異臭付き物件、果たして、どうなってしまうのだろう。

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