かすみ荘 - 雑文:こっそり月見雑文祭参加作品2
[もどりゅ]

218. 【月は紅に輝いて】 (2002.09.24)

こっそり月見雑文祭参加作品

○満月の夜に、悪魔は仲間にならない。そんなゲームがあった。
 霧晶(みその)はため息をついた。
 ?元気無いわね?
 「別に」
 ?まーた、そんな可愛くない返事して。昔は可愛かったのに?
 「ゆっくり一人で考える時間を邪魔しないで下さい」
 ?ふふん、大した事なんか考えていないのにね?
 華奈(かな)は霧晶にだけ、聞こえるように言う。いや、正確には霧晶にしか聞こえないのだ。華奈は霧晶にとり憑いているもの、だから。

○霧晶は15歳の誕生日を迎えてから、この頭の中に響く声と付き合ってきた。今年で24歳になる霧晶の9年間は、華奈子と名乗るものとともにあって、時には自分では考えもつかない事をやる破目になったりしてきていた。霧晶は子供の時から面倒が嫌いな性格をしていたから、声が聞こえるのだから、体が勝手に動くのだから仕方ないという理由で、華奈というものを取り立てて何とかしようとした事は無かった。華奈が自分の妄想でも構わないし、いわゆる心霊現象でも構わないし、ヒステリーの耳鳴りでも構わなくて、とりあえず聞こえるし、憑依されているみたいだからという現実に応じて対処しているのだ。自分さえわかっていれば構わない。人に話したところで、頭がおかしいとでも思われておしまいになるんだろう、そう考えている。

○華奈と名乗る者は、自分を神だと主張している。つまり、霧晶は神様が憑依している巫女になる。とはいえ、所詮頭の中の声の主張であるからして、信憑性は無い。第一、神が己の内に宿った割には、その神がやることといえば、痴漢の手に安全ピンをぶっ刺したり、痴漢の足をハイヒールで踏みつけ骨折させたり、変出者をスタンガンでどつきまわしたり、塾帰りのうっさいお子様を厳重注意したりするくらいである。神というより気の短い人ではないか。

○事件は満月の夜に起こった。赤く輝く、まるで何かの瞳の様に。悪魔の瞳の様に。
 「ちょっと遅くなっちゃったな」
 ?ちょっと?霧晶はお子様なんだから、もう遅すぎると思うわね?
 「華奈さん、私もう二十歳過ぎてるんだけど」
 ?ふふん、あたしから見れば子供も子供、お子様ね?
 「華奈さん、年寄り何ですか?」
 ?・・・・・。殺すわよ?
 「ああっ、ごめんなさい」

○霧晶は一人、家までの夜道を小さく、口の中で独り言を呟いていた。勿論、わざわざ呟かなくても話は通じる。自分の中で行われる会話だから。それでも霧晶は声を出す、小さく。自分ともう一つの対話が当たり前になされている事を認識するかの様に。
 ?霧晶っ?
 華奈の声が霧晶の頭の中に弾ける。
 瞬間、霧晶の体が横に倒れた。よろけた訳ではない、躓いた訳でも。外的な力。空き地に誰かに覆い被され、押し倒される。

○痴漢だ!霧晶の視界が横、そして空を見上げる形になった。その視界に風に凪ぐススキと、月光で顔が分からない誰か。霧晶の口から恐怖の余り声にならない悲鳴が走る。それは空気を切り裂くけれども、震えさせる事が出来ない。
 ?霧晶っ、自分の声で叫びなさいっ!息を吸って、叫びなさいっっ!?
 華奈の声がもう一度、霧晶の頭の中に弾ける。
 「誰かっ!誰か助けてっ!」
 頭の中に弾ける声、それに声が、霧晶の、心からの叫びが、夜中の空気を、閑散とした住宅街を切り裂く。

○それが逃げ去って、放心した霧晶の頭の中に、また声が響く。なだめる様に、落ち着いた声。
 ?さ、情けない格好を近所の暇人に見せる前に、家に帰るわよ?
 霧晶は顔の涙をぬぐった。確かに、此処にいて誰かに見られるのはまずい。下手な話を撒き散らされても困る。服の汚れを払い、立ち上がる。周囲の家にも明かりが着きはじめた。霧晶が感じたよりも、時間は短かったらしい。ほんの数秒の出来事だったのだ。

○翌月の夜、ふと霧晶が天を仰ぐと、また赤い月が輝いている。
 ?そう何回も恐い目にあったりしないわよ?
 「そうですね、多分」
 ?それにね、二回目からは意外と声が出るものよ?
 くすくすっと笑う声が頭に響く。霧晶もつられて笑った。もう一度空を仰ぐ。中秋の名月とか言うんだっけ、でも、今日の月は赤くて、兎の瞳の様。先月は恐かったけれど、今日の月は恐くない。きっと華奈さんの目も赤いんじゃないかな。でも兎みたいに弱いものじゃない、そう、イメージとしてはヴァンパイアかも知れない。得体の知れない自信、外敵への反射、見え隠れするプライド。

○でも霧晶には決して害を加えようとしない。やたらとからかってくる事はあっても。
 「華奈さん、今日は満月みたいですよ」
 ?そうね?
 「折角ですからお団子でもお供えしましょうか?」
 ?どういう意味よ?
 「いや、ほら、お化けみたいなものだし」
 ?はあ?何勘違いしてるの?自分が妖怪みたいなものなのに?
 「どういう意味ですか?」
 ?ふふん、そのままの意味よ?
 華奈の言葉に苦笑した霧晶が見上げる空に、輝く月。それをとりまく朧な傘。実態があっても無くても構わない。見えているのだから、形があるのだから、傘はあるのだ。例えそれが、本当は触れもしない空気中の水滴だとしても。

○温かく和んでいる霧晶の心。仰ぎ見る月と、その傘、それと同じ様に霧晶の心はやっぱり丸かった。

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初めての創作雑文です。うう、落ちが無理やりです。思いつかなかったのです。びゅびゅびゅびゅびゅ。

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