かすみ荘 - 雑文:今度テープを壊しに行かねば
[もどりゅ]

239. 【遭遇、昔取った杵柄】 (2002.12.20)



○買い物に行ったのだ。そこで欲しい物を物色していたのだ。決してあちきは奇抜な行動を取ったりはしていない。賞品をためすがめつ手にとって眺めていただけと言い切ってもいい。脳内には、題名も歌っている人も知らない、十年前に人から聞かされた曲が、エンドレスでながれてはいたが、決して、それを歌ったりはしてもいない。つまり、一見すると、そこいらにいそうな年齢不詳の女が、買い物をしているとしか見えなかったに違いない筈なのだ。

○が、彼女はすそそそそっとあちきの傍に寄って来た。そして、
 「すいません、あの上の棚にある赤いの、とってくれませんか?」
といったのである。あちきの身長は160センチぴったり、彼女は150センチそこそこといったところだから、店員さんを呼ばずに、そこにいた昼行灯みたいな人間に取ってもらおうと考えてもおかしくはないのだ。店員さんは忙しそうだけど、あちきはぼけーっとしていたのだから、中々素晴らしい判断であろう。

○手を伸ばして彼女の欲しい物をとって渡した。すると、
 「ありがとうございます。あの、お礼に、お茶でもどうですか?」
はぁ?

○まじまじと彼女を観察すると、10代後半から21,2歳といったところ。なかなか可愛らしいお嬢さんである。あちきは自分の聞き間違いだと思ったし、当然そうであってしかるべきなのだが、彼女はもう一度繰り返した。
 「一緒にお茶でも飲みませんか?」

○新手の喫茶店の勧誘なのであろうか。それとも新しいキャッチセールスの類であろうか。兎も角、あちきをお茶に誘っている事は事実であるって、何を考えているのだ。このお嬢さんは。可能性として、あちきが生き別れの恋人に似ていたり、死に別れの恋人に似ていたり、生き別れの姉妹に似ていたり、死に別れの姉妹に似ていたり、その他、嫌というほどの可能性があるのだが、む〜みゅ、内心かなり悩んでいると、
 「××高校の演劇部の三好先輩ですよねっ!」
と言われたのです、ええ、ええ。

○三好、というのは、あちきが高校時代やった演劇部の劇に出て来る男役である。つまり、このお嬢さんは昔にあちきがやった劇の男役に話し掛けているのだ。疑問、氷解。勿論、疑問が氷解しただけで、解決にはなっていない。あちきにとって三好は嫌な思い出ばかりだ。三好をやってからこちら、
 ご不浄に行く>「三好先輩はトイレなんていきません!」
 買い食いをする>「三好先輩は肉まんなんて食べません!」
 kasumi言葉を使う>「三好先輩は女言葉なんて使いません!」
 購買で昼パンを買う>「三好先輩は買い物で並んだりしません!」
 女役をやる>「三好先輩は女じゃありません!」
などと一事が万事、突っ込まれた。どうでもいいけれど、女じゃないって、どうよ。さらに、体育の授業の時は、窓から黄色い歓声をいただき、下校しようとすれば、わらわらと見ず知らずの後輩が集まり、部活動をすれば邪魔な見学者が目白押し。靴箱にラブレターは入れられるわ、ロッカーにラブレターは入れられるわ、バレンタインデーには食べたらやばそうな手作りチョコが大量に届くわ、委員会にまで見学者が来る始末。女子高恐るべし、である。

○彼女はその三好をビデオで何回も見たのだという。演劇部の後輩という彼女は、ここであったのも何かの縁だから、一緒にお茶を飲もうというのだ。少なくとも、あちきは彼女の顔は知らないので、卒業してから入部した子になるのであろう。そして、あちきの毎日の出勤時の痴漢防止服装、パンツとシャツに上着をじーっと眺めて、
 「やっぱり三好先輩は、いつもそういう格好してるんですねぇ、かっこいいです」
などどいうのであった。ちょっと待て、そりは大きな誤解だ。こりはかじゅありんぐであって、お出かけする時はもっとおされさんだ。しかも、上目遣いに見ないで下さい。怖いです、怖いです、助けてぇ・・・。

○必死に彼女の視線を避けつつ、
 「今日はこれから用があるのでまた今度ね」
と社交辞令を言うと、
 「じゃあ、電話番号を教えて下さいv」
ときた。むみゅ、手ごわい。しかも何故手を握る。ぶんぶんと外そうとしてもがっちり握られて離れない。お嬢さん、あちき本当に非力なんです。勘弁して下さい。
 「ええとね、電話家に無いの。携帯しかないから」
すると、ひたりっと目をあちきにあわせ、満面の笑みを浮かべた。
 「携帯の方がいいです」
ぐ!やっぱり間違ってた、言い方。

○仕方が無いので、内心の動揺をぐっと抑え、声を低くし、当時の三好君の口ぶりを再現しつつ、彼女の手をぐっと握り返す。
 「悪いけど、自分の電話番号わからないんだ。あいにく今日は電話を忘れてきてしまってね、僕から君にかけるから、電話番号を教えてくれるかな」
 「あ、嬉しいっ!えーとですね・・・」
お嬢さん、よく考えてください、成人した妙齢の女性は己の事を僕とはいいません。

○さて、困った事にあちきの前に、可愛らしい名刺がある。当然電話をする気は毛頭無いが、彼女の住所が記載されており、それはそのお店の近くであるのだ。つまり、彼女に遭遇する確立がそれなりに存在している。これからはかの町を歩く時はみっしょんがいんぽっしぶる必要があるのだな。あ〜あ(ため息)。

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