かすみ荘 - 雑文:しゅたっと抜けたい
[もどりゅ]

247. 【流れるような動作でもって】 (2003.02.12)



○駅の自動改札で、定期券を入れる時、いつもいつもドキドキする。この流れをせき止めてはいけないと、心の中の小人さんが囁き、かといってかなり早くから定期券を握るのはスマートではないと思ってしまう。

○その為、あと3メートルのあたりで定期の入っているお財布を出し、2メートルのあたりでお財布を開き定期に手をかける。そして引き抜き、流れるように自動改札に投入する。ああ、今回も背筋を伸ばし、美しく定期を投入出来た。そう思うのもつかの間、さらにコンマ何秒後かに大いなる試練が待ち受けている。

○皆さんお気づきであると思うが、それは定期を自動改札の自動排出口から、スマートに受け取り、かつ、前に進む流れを止めずに定期をお財布にしまって立ち去る事である。

○自動改札、というだけあって、機械は自動的に定期券を搬出する。しかしながら、生意気にもいつも同じペースとは限らないのだ。早い時もあるし、遅い時もある。時間にしてほんの1秒も変わらないのだけれど、これはゆゆしき問題である。

○と、力説するあちきに、小姉さんは別段興味がなさそうに「で、その話の落ちは?」と聞いてきた。みゅ、そんなものある訳無いではないか。あちきが言いたいのは、自動改札と言うものがどれだけ利用者に精神的不安を与えているかという事なのだ。

○小姉さんはかしかしと首筋を爪先で引っかいて、事も無げに口を開いた。「でも昔の有人で捕まる方が恥ずかしくない?」昔、むか〜しの有人改札の話である。確かに、駅員さんはちきちきちんと鋏を軽快に鳴らしながら、歩哨番の如く小さなスペースに立ち、切符を切りつつ定期に鋭い視線を走らせ、期限切れの定期を発見すると、「お客さん」といいながら、がしっと持ち主を止めていた。

○みゅう。対人と対機械の違いをわかっていないお姉さまだ。人は例え何がどうあろうとも、定期が切れているのに気づいていないだけであれば「あ」で、済むではないか。キセルはつかまるけども。でも、自動改札は“ぴんぽ〜ん”と無常のチャイムを鳴らし、突破出来ないように出口の扉を閉めてしまう。例え1日オーバーでも、流れをせき止め、大きな音を立てるのだ。

○小姉さんの柳眉がつと、動いた。「お嬢ちゃん、例え駅員が捕まえても、後ろの人は入れなくなっていたのよ」

○びゅびゅびゅびゅびゅ!あちきのご意見の悪いとこをしっかり突くとは!わかってたなりよ、わかっていたでする、たしかにそうなんだけど、気分的に人に捕まるのと、機械に捕まるのだったら、人の方がよくないかにゅ?という問いなのだ。「でも、さっきまでお嬢ちゃんは、自動改札をいかに美しくクリアーするかと言う事を話していたでしょう。ここまでは良いわよね」「あい」「なのに途中から有人改札と自動改札の比較になっているわね」「ぁぃ」「話が違うじゃない」その通りでございます。「論旨のすり替えをしたら会話が成立しないわね」おっしゃる通りでございます。

○うんとつまり〜、今日いつもの如く自動改札をかっちょよく通り抜けようとしたのです。したらば、前のとっしょりの人がぴんぽ〜んってなって、あれあれって、くるくる回転して、そんで横に避けようとしたらそっちでも、ぴんぽ〜んってなったの。「それで?」有人改札だったら、こうお年よりの人の後ろをすり抜けられるんじゃないかなあと思って。「スマートに?」そうそう。

○有人改札の頃の隙間はそんなに広くなかったと思うけど、と呟きつつ、小姉さんは口を開いてはっきりと発音した。
 「で、お嬢ちゃんが約束の時間に30分遅れた事とどう関係があるの?」と

○ええと、つまり、あそこでとっしょりの人がぴんぽんしなかったら、遅刻しなかったと思うの。「ほほう、たかが数秒の事で?」うんとうんと、ほら、ダムだって蟻の穴から決壊するでしょう?「でもお年よりのせいで電車を逃したとしても、その後に事故で足止めを食ったわけではないでしょう?」うみゅ、そこはそれ、神秘。川の流れは元の流れじゃなくて、馬の轡をとって暮らすの。「言っておきますけど、お嬢ちゃんの遅刻癖の言い訳にはならないわよ」みゅううううううう。

○世の中の深遠は深く、ぽっちりと点のように存在する一駄目人間のあちきには、時間の流れをせき止める事は出来なかった訳で、つまりは遅刻したのではなく、時においていかれたという事で・・・。ごにょごにょと呟くも小姉さんの表情は変わらなかった。

○しくしくしくしく。自業自得とはいえ、その後の遅れて来た人のおごりでケーキ(しかも遅刻者はお茶のみ)は拷問でした。あうあう。

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