かすみ荘 - 雑文:こんにちわ、あかちゃ〜む2
[もどりゅ]

288. 【今日ね、切っちゃうから】 (2004.12.01)



○再検査の日は土曜日だったので、夫の人と車で行ってみる事にした。車で行けば、陣痛が起きた時、荷物を載せてスムーズに病院に行く予行練習になるからである。うみゅ、うちら夫婦って計画的〜w病院の駐車場に到着。病院の産婦人科に移動。母子手帳を出し、順番を待つ。

○昨日の検査での気になる部分をクリアにするための検査であるからして、体重やら血圧やらを測る必要は無いので、大人しくすぺさる再検査を待つ。ところが、予約時間になって看護士さんがやって来て、申し訳なさそうにこう言った。
「kasumiさん、お時間ありますか?大変申し訳ないのですが、先に検査をしたい急患の方がいらっしゃるので、40分程お待ちいただきたいのですが」
うみゅ、急患である。危ないのである。同じ病院に通う仲間だし、同じ妊婦さんであるからして、急患であるその方が先になるのに依存はない。気持ちよくオッケーし、呼ばれるまでぼげ〜、としていた。
「大変お待たせしました。検査の場所、おわかりですよね」
「はい〜」
返事をしてぽてぽてと、産婦人科の診察室を出て、ロビーに行くと暇になった夫の人がいた。
「終わったの〜?」
「まだ。これから部屋を移動して検査。検査前にイチゴ牛乳を飲もうと思って」
などと話していると、担当の産科の先生が、あちきの横を通って、こっちにほほえんで去っていった。検査は一人ずつ行う予約制なので、あちきが此処で立ち止まっているのを見られたのは、ちょっと気まずい。
「先生通った。イチゴ牛乳は後で飲もうっと。検査自体は装置付けて30分だって」
「ふ〜ん、じゃあ、準備とかで1時間見ておけばいいかな〜」
「待たせてごめんね。急患の人が先になったんだって」
「急患なら仕方ないでしょ」
いってきま〜す、と挨拶して、ぽてぽてと検査室へ向かったのだ、が。この選択は間違っていたのだ。

○昨日もお世話になった、謎の機械をくっつけて、暇に飽かせて、出産時に行う予定の深呼吸をおさらいしてみる。はふ〜、はふ〜、暇。あちきの斜めお向かいのベッドには、例の急患さんがいらっさるようだ。ベッドごとにカーテンが下がっているが、所詮カーテンなので、会話は筒抜けである。どうやら、今日は点滴を打って、帰るらしい。今、点滴ingである。大変ですのぅ、ほっほっほ。

○などと、あれこれつまらない事を考えていると、機械がぽぺー、と鳴った。ぽぺー。壊れたか?あちき、なーんにも悪いことしてないにょ。すると、助産士さんが現れて、謎の機械の結果を見て、眉間にしわを寄せて、あちきを見た。
「kasumiさん、具合悪くありませんか?」
「へ?いやもう、暇ですが、元気です」
「そうですか・・・。動かないで下さいね、ちょっと結果に問題があるんですよ。先生呼んできますから、動かないで下さいね」
もみゅ???どうやら、具合が悪くなくてはいけないようだ。む〜みゅ、ここはいっぱつ、具合の悪い振りでもすべきなのであろうか。嗚呼、薄幸の妊婦のあ・ち・き。産まれる、産まれる〜ん。などとあふぉうな妄想を巡らせていると、見たことのない先生と、看護士さん、助産士さんがやって来た。ありょ?あちきの担当の先生は?

○先生は機械から吐き出されたデータを見て、眉間にしわを寄せた。ええと、ここはあれですか?眉間にしわを寄せる、病院ですか?あちきも寄せましょうか?
「あー、駄目だね」と、先生。
何がデスか?
「ですよね」と、助産士さん。
ですから何がデスか?
「緊急の患者さんより、緊急ですね」と、看護士さん。
緊急より、緊急って何ですか?新しい言葉ですか?
「機械、とっちゃって。部屋、空いてるよね。緊急で、すぐやっちゃおう」
部屋空いてるって何ですか?あちき、入院ですか?そーゆー意味ですよね、部屋空いてるって。
「kasumiさん、具合は悪くないですか?ええとね、今日ね、切っちゃうから」
はぁあああああ??????切っちゃうって何をデスか?気軽におっしゃいますが、もしかして、あちきを切るんですか?冗談ですよね、そんなリンゴか何かを切るみたいに、お気軽に言ってるんですから、そうじゃないですよね?機械のスイッチを切るとかそーゆー事ですよね。
「今日旦那さんはおうち?」と、看護士さん。
「いえ、お休みなので、ロビーで検査終わるの待ってます」
「そう、じゃあ、呼んであげるから動かないでね。大丈夫だからね」
へ?やっぱし、あちきを切っちゃうんですか?ま、まさか、ねぇ・・・。

○ましゃか、と思いつつも、看護士さんが、機械を体から外した後、謎の手術着のようなものをあちきに渡してくると、にこやかにこう言うではないか。
「これに着替えてから、あっちの部屋に移動します。着てきた服はまとめちゃって袋に入れて下さい」
「えと、下着は着ても・・・」
「脱いで下さい」
「へ???」
さささっと、いなくなる看護士さん。仕方無しに、すっぽんぽんの上から緑色の手術着とおぼしき服を着る。
「あらら、緊急ですか?」
「そうなのよ。貴方より緊急だったわ」
「わら、悪いことしちゃいましたね。私が入ったせいで、検査が遅れちゃったんですよね」
「そーなのよねー」
ちょっと待て、緊急の人よ。あちきを肴に、看護士さんと談笑しておるが、笑えないぞ。

○ 靴下も袋に入れられたので、裸足にスリッパ、パンツ物資すら無いという情けない格好で、頼りない薄さの手術着一枚で、ぺてぺてと待機室を出ると、待ちかまえていた看護士さんに捕獲され、分娩室に入った。ドラマでしか見たことのない、椅子が2台、鎮座ましましてる部屋。事務机もあるけど、薬棚もあるし、イメージとしては、学校の保健室に、すぺさるな椅子が置かれているような感じがしないでもない。そのすぺさるな椅子が、リクライニングで完全に平らになっており、そこに寝ろと言われ、おとなしく横になる。何をしようというのであろうか。何で分娩台に寝かされているのであろうか。何を切るというのであろうか。分娩室で何を切るというのだ、とぐるぐると頭の中で思考が回転する。と、知らない先生が、爽やかな笑顔でこうのたまった。
「えっとねー、kasumiさんね、今日の検査で、にょかにょか何とかだったんだ。えーとね、わかりやすく言うと、赤ちゃんがくっついてる胎盤ね、これが剥がれかけてるんだよねー。でね、さっきの検査で、赤ちゃんの心臓が、弱ったりしてるのがわかったのね。だからね、今日、切っちゃいます。えーとね、12時半からね、切るから、これから準備します」
・・・・・・・・・・・・。せんせぇ、今、11時45分デスよ。手術まで、小学生の授業1時間分しかありませんよ?あちきの心の準備の時間は45分ですか?
「あ、そうそう、僕がね、切るからね。これから僕が担当になるからね。えとね、××先生だけど、手術には立ち会ってもらえるから、安心してね」
・・・・・・・・・・・・。せんせぇ、あまり安心できる話っぷりではありませんが?というか、先生、電波、出てませんか?これはありですか?大学を出た有能な人は、電波に見えるという、あちきジンクスがまた一つ、追加される実証例ですか?

○手術なんて嫌である。とはいえ、逃走するにも、パンツ物資すら取り上げられているので、このまま逃げる訳にはいかない。それに、大きなお腹で逃げ切れる筈も無い。何とかここから引田天功並に脱出する方法を試行錯誤するが、脱出は絶望的である。プリンセスか?二代目であるプリンセステンコー並の力を発揮せねば脱出不可能か?などと考えていると、看護士さんが次々と書類を出してきて、そこにサインをさせられたり、先生が謎の承諾書を読んでくれて、サインをしろと迫ってきたり、何時にご飯を食べたか?何時間寝たかなどと質問責めをしてきて、挙げ句、
「点滴、入れますからねー」
「手術中危なくなったら、輸血に切り替えますからねー」
「カテーテル入れますからねー」
「心拍数測る機械つけますよー」
「血圧計つけますよー」
などと言われ、あれよあれよと言う間に、まな板の上の鯛のようにされてしまった。これではテンコーでも逃げられまい。だって、カテーテルですよ、奥さん!妙齢の女性として、この様な恥ずかしい格好で逃げられる筈もありません。しくしくしくしく。

○そんな事をされていると、頭を動かすの禁止されて真上しか見えないあちきの前に、白衣を着た夫の人がふらふらと現れた。どうやら、白衣を着るのが嬉しいらしい。さすが、将来の夢がマッドサイエンティストだった男である。何故だ、夫の人を含め、何故みんな微笑んでいるのだ。あちきは笑えないぞ。これはあれか?新型の嫌がらせか?動けない人を囲んで微笑む、謎の集会か?
「帰れなくなっちゃったねー」
「ランチ・・・」
「あー、無理だねー。しかも赤ちゃん産まれたら、しばらく行けないね」
そうなのである。あちきの今日のご予定は、検査終了後、イチゴ牛乳を飲み、本屋に寄って、牛タン料理屋でランチ麦とろ牛タン定食を食し、家に戻り休憩した後、実家のみなさんと釣り堀料理屋に行って鰺を釣って刺身にして貰う予定だったのだ。

○ぶいぶいと心の中で文句をたれていると、今度はやたらと若い、爽やかな青年が入ってきて、こうのたまった。
「麻酔の担当の○○でーす。麻酔の承諾をしてもらいまーす」
・・・・・・・・・・・・。あああああああああ!名札にけんしゅーいって書いてあるよ、けんしゅーいって!研修医って、大学病院に研修に来ている学生さんですか?その辺のシステムはわからないのですが、あちきは実験台ですか?違いますよね、違いますよね、違いますよね。途中で麻酔が切れたりしませんよね?痛くなったら、痛くなったら?切れたら、お腹切れてるんですよ?痛みのショックでシンダリシマスカ?ああああああ!遺書くらい書かせてぇえええ!
「で、ですねー、局部麻酔をするんですけど、効き方によっては全身麻酔になりますね。そうなると寝ちゃうんで、赤ちゃんが産まれてもわからないんですけど、まー、効かないと話になりませんから」
うあああああああああ!手術の先生と良い、麻酔の先生と良い、そっちは日常茶飯事でも、こちとら生まれて初めて手術なんだってばああ!軽く言わないでぇええ。

○心中はぐるぐるであるのだが、負けず嫌いなので、手術経験者の夫の人が笑って見ている限り、弱音を吐くわけにもいかず、へるへると笑いながら、承諾するあちき。実に健気である。そうこうしているうちに、12時半になり、後は動くな、と指示されたあちきは、下に敷かれたシーツごとストレッチャーに乗せられ、ごろごろとエレベーターに乗り込む羽目になった。夫の人とはエレベーターの前でお別れである。
「頑張ってね」
「ぁぃ」
答えたものの、頑張るのはあちきではなく、先生である。先生頼みますよぉ・・・。エレベーターが止まり、ごろごろと入った部屋で、またよっこらしょと丸太の如く台の上に載せられた。真上には、ドラマでしか見たことのない、手術室っぽい照明。
「麻酔打ちますよー。脊椎に打つから、腰に注射ですよー。ごつんって衝撃があると思いますけど、大丈夫ですからねー」
・・・・・・・・・・・・。大丈夫じゃないような言い方は勘弁して下さい。

○ベテランと思しき助産士さんが、丸まったあちきの両手をぎゅっと握ってくれて、頭を手で支えてくれた。
「大丈夫よ。こうやっててあげますからね」
嗚呼、此処に一番頼りになりそうな方がいらっさいます。神はあちきを見捨ててはいなかった。そう、この助産士さんを信じよう。信じれば、救われるに違いない。腰をぐーっと押される様な感覚をうけた後、肩から順に麻酔が効いたのか調べる作業をする麻酔の先生。肩に何やら冷たい何かをてんてんをあてて、
「このまま下に下がりますからねー。冷たいのわかんなくなったらはいって言って下さいねー」
てんてんてんてんてん・・・。
「はい」
「じゃー、もー一回」
てんてんてんてん・・・。
「はい」
「次に、ちくちくしたので、下に下がりますからねー」
本当にこれで麻酔が効いたのが判るのですか???あちきにはまったくもってわかりません。

○あちきが麻酔の効き目に恐怖を感じている時、夫の人は、あちきのママンと連絡を取ろうとしていたが、取れずに困っていた。その頃のママンは、ううちゃんと一緒に外出をしており、バスが30分以上来ないので、あちきに迎えに来て貰おうとしたが、あちきが携帯電話に出ないので、仕方なくとぼとぼと炎天下、病院で何かあったのかねえ、といいながら歩いていたそうである。

>続く

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