かすみ荘 - 雑文:土用丑、鰻の寝床雑文祭り参加作品のつもり
[もどりゅ]

293. 【隙間にはまるという遺伝子?】 (2005.07.21)

○呻くぐらいなら、ベッドにあがって来てはいかがですか?夫の人よ。

○結婚すると、お互いの見えてなかった生活様式というものが見えて来るというのを、自分が結婚してやっと理解したのですが、あれですね、確かにああ、こんな事をする人だったのか、と嘆息する気持ちがわかる為には一緒に生活をしないとわかりませんね。うんうん。我が友人のうち数名は、結婚前に出来れば同棲生活というものを体験すべきではないだろうか。さするれば、結婚してから相手の性癖のようなもので幻滅したりしないで済むという、進歩的というか、革新的というか、あちきにはちょっと無理なこう、思い切った作戦を口にしていたのだが、実際にその様な行為に及んだのは片手で数えられるほどであった。

○口にしながら行わなかった友人達の結論のひとつに、同棲するという事は、ある程度の生活用品などを揃えねばならないので、そこですでに手間がかかるので、煩雑な作業を二回もやるくらいなら、離婚の作業も似たようなものなので、いいや結婚してしまえ、という気風のいいものだったりするからあなどれない。

○そんな訳で、あちきが結婚した夫の人にも、あちきには理解不可能なくせがいくつかあったのですが、そのうちのひとつに狭いところに嵌るというものがあるのですよ。例えば、一緒に買い物に行くとしましょう。そこであちきが雑貨なんかを物色するのに時間がかかっていると、夫の人はお店のディスプレイの隙間や、建物の端っこの角にすっぽりとはまっていたりする。最近は、歩くの大好き、ちびっこぽちぞうというオプションがついた為、比較的わかりやすいところで遊んでいるのだが、ぽちぞうの隙を見つけると、何故か保護が必要な幼児である息子を放置し、ちょっと離れた隙間にはまって見ているのだから訳がわからない。

○そんな夫の人とあちきの去年の夏は、生まれたばかりの乳児に大奮闘しており、二人で初めての乳児を抱えておろおろしながらも、頑張って育てていた思い出がある。出産した後の一ヶ月は、あちきの実家でやっかいになっていたのだが、家族三人で家に集って一番に困ったのは乳児の入浴であったのだ。生まれて2ヶ月たったから、大きいお風呂に入れても良い、と育児の本には書いてあるものの、首が座っていないぐにゃぐにゃの乳児を大きなお風呂に入れたら、溺れさせてしまうのでないかとおたおたする二人。実家にいた時は、あれこれと理由をつけてあちきの母にお願いしていたし、入れなくちゃいけない時もベビーバスを使っていたからそんなに怖くなかったのだ。

○二人して相談の結果、夏だし、お風呂沸かすのもったいないから、しばらくベビーバスで行こうと決めた。ちんまりと小さなぽちぞうが、ちんまりと小さなベビーバスで入浴する。しかも、そのベビーバスはシンクにすっぽり納まっているのだ。
 「何か良いねぇ。このすっぽり感が」
 「みょ?」
 「僕はすっぽりが好きなのです」
 「・・・。知ってるにょ」
 「良いなあ、すっぽり」

○初めての親子三人の夕食は鰻になった。親子三人と言っても、ぽちぞうはミルクしか飲めないので、久しぶりの夫婦のディナーと言った方が正しいかも知れない。正直あちきは鰻が苦手なのだけれど、実家にいた時にあちきの伯母さんが出産のお祝いをくれるついでに「たくさん母乳を出さないといけないし、もうすぐ土用の丑の日でしょ。いっぱい栄養をつけないとだめよ」と言って、真空パックの高級鰻をくれたのだ。実家に置き忘れようとしたのだが、あちきの母の人は忘れていなかったし、夫の人は鰻が好きなので仕方が無い。むみゅう、平賀源内の呪いではあるまいまいか?

○鰻を食べた夫の人は「真空パックでも良いやつは美味しいね。僕はちょっと疲れたので昼寝をする」と言って寝室に入って行った。ぽちぞうはあちきのいるリビングに用意された、ぽちっとスペースで寝ているので、夫の人は一人で寝るらしい。先にシャワーを浴びてパソコンをいじっているが、いつまでたっても夫の人がリビングに戻って来ない。これは確実に寝ていると思い、寝室のドアをそっと開けた。と、中からむっと熱気が押し寄せて来る。どうやら窓もドアも締め切りで寝ていたらしい。この暑いのによくもまあ、サウナの様な部屋で寝ていられるものだ。こんなだから、夫の人は体の中の水分が枯渇して、がりっちょんに痩せているのかも知れない。

○と、ベッドの上に夫の人がいないではないか。むみゅ?そっとドアを閉めて、別の部屋のドアを開ける。ここにもいない。そういえば恐怖のシュウマイという話があった。シュウマイがふたを開ける度に減っていくという、シュールな話。落ちはシュウマイはふたにひっついていました、というものであったが、夫の人もドアにひっついているのであろうか。ドアを開けてくるくると見回すと、何故かベッドと壁の隙間、30センチほどのところに嵌ってすぴょすぴょと寝こけている。鰻の寝床の様な空間に、鰻のような細い夫の人が嵌っているのだ。時々、呻いているのは、暑苦しいからではないだろうか。

○鰻を食べて、怪奇鰻男になってしまったのであろうか。だとしたら、呻く必要は無いのですよ、きっと。呻くくらいなのに、何故起きないか謎です。む〜みゅみゅ。呻くよりも、すっぽり感に満足しているのでしょうか。だとしたら、恐ろしいほどのすっぽりへの憧れです、憧憬です。

○今年も鰻を食べましたが、夫の人は鰻男にはなりませんでした。が、まだ鰻を食べられないぽちぞうが、置いておいた細長い段ボール箱にはまってけらけらと笑っているのですが、こりはあれですか?遺伝ですか?そりとも呪いですか?しくしくしく。

〇『土用丑、鰻の寝床雑文祭』参加作品のつもりhttp://homepage3.nifty.com/alstroemeria/unagi-zatsubunsai.htm

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