かすみ荘 - 父とわたくし:父と事情聴取
[もどりゅ]

ACT033:父と事情聴取(2001.06.27)


◇実直でまじめ、実は結構お調子者の父は、生まれて此の方軽犯罪すらおかした事が無いと豪語していた。例えばお花見で枝を折ったり、山で植物を持って帰ったり、地面に唾を吐いたり、そんな小さな事すらした事がないらしい。父曰く、悪い事など一度もしていないから、誰にもびくびくしなくて済む、らしい。でも、些細な事でびくびくする様な生活をしている人は少ないと思う。父の人生観はどうも、ちょっとずれている様だ。ま、人生色々ですな。

◇そんな父がサツにしょっぴかれてしまった。残された我々家族は、じつと手ヲ見る毎日なのである。いや、帰って来たけど。しかもさくさくと。当局の人は自宅にも来なかったので、「沙羅さん、貴方に聞きたい事がある。ちょっと本署までご足労お願いしたい」などと、山さんといわれていそうな人に言われたりしているのを、どきどきしながら見るという体験も出来なかった。

◇事の起こりは、とある種を貰った事から始まる。母関係のある女性が海外旅行に行った折り、かわいい花の咲く種をお土産に下さった。種、というのは許可無く国内に持ち込んではいけない。本来であれば、税関でシャットアウトされる筈であったのだが、個人をチェックするのも限界がある。その為、ちょっとした個人のお土産レベルの種は見過ごされてしまったのだろう。ましてやその女性は楽器奏者であった為に海外渡航経験が豊富で、旅行慣れしている人間がその様なものを所持しているとは、税関の方もわからなかったのではないだろうか。その女性から園芸好きの父へ、その種が渡ったのがちょいと前の話なのだ。

◇さて、父は園芸大好き人間である。自分でそう言っていたので、そうなのであろう。前の話などと合わせてみるに、鶴拳を会得したマジシャンでかつ、昼間の顔は庭師、という奇妙奇天烈な人間像が浮かんでくるのだが、それは考えまい。奇天烈の娘にはなりたくないからだ。

◇大好き人間はその種を増やした。そんでもって当時の勤め先であるスポーツセンターの花壇に植え、友人や職場の皆さんに配ったりした。なもんだから、スポセンの花壇はその愛らしい花がたーんと、たーんと、ぶわーっと並んだ。

◇結局、その花は当局が目を付けるような花だったのである。おわかりの方もいらっしゃると思うが、ゴールデントライアングルで栽培されている花である。その花はケシといふ。ポピーともいふ。鑑賞用のケシは植えても良いのだが、そじゃないケシが植わっていたのである。咲いていたのである。スポセンに、我が家に、分けてあげた人の家に。

◇何故ケシを植えてはいけないのか。簡単な話なのだけれど、ケシからはあへんが取れるのである。あへん法にひっかかってしまうのである。あるあるある。あへんというといまいちなじみが薄いのだが、漢字で書くと阿片、アヘン戦争などという名前でイギリスと中国が戦争をしちゃうくらいのものなのだ。

◇そんなこんなで警察署でちょびっと厳重注意を受け、種やら株やらを分けた先に謝りに行き、花は保健所によって撤去されてしまったのだけれど、父は結構ごきげんである。どうやら警察署で事情聴取されるという、非日常的状況を楽しんで来たらしいのだ。ケシも全部処分したし、ちゃんと関係者にも謝罪したし、警察でもわかってもらえたし、やっぱり人生経験で一度は警察に行くべきだ、などとふざけてそんな事まで言っている。いっそそのまましばらく泊めていただいても面白かったと思うのだけれど、まだまだ現役で働いている収入のある人なので、拘留されると我が家の家計に響くので、結果はこれで良いのであろう。

◇に、しても、つい最近まで我が家の庭や、某スポーツセンターの庭は、お好きな人にはたまらない状態になっていたのだな、と思うと、それを収穫しようとする人がいたら、さぞかし恐い事になっていたであろう。うみゅ。

教訓:自称園芸好きなら何の種か確認してから蒔いた方が良い。


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