かすみ荘 - 父とわたくし:未だ想像出来ない
[もどりゅ]

ACT045:父と初めてのおつかい(2001.10.15)


◇初めてのおつかいと言うテレビ番組を見た事がある。ちいさな子供が一人でお父さんにお弁当を届けたり、兄妹で雨の中お母さんのお誕生日のケーキを買いに行ったりするという番組だ。コンセプトは頑張る子供であろうか。バスに初めて一人で乗ったり、傘をおちょこにされちゃったり、必要以上の食材を買って持つのがやっとだったりとさまざまなアクシデントに見舞われつつ、任務を終了するのである。任務遂行後、彼等彼女らは大きく成長する、らしい。

◇さて、ここに、一人でスーパーでお買い物をした事の無い人物がいる。ここで言及するのだから、当然の事ながらその人物とは我が父だったりする。当年とって61歳。十年(とうねん)取ったら51歳。歳を取ってはいけません。ごめんなさい。父がこうなってしまったのには理由がある。父の母、つまりかすみのお祖母ちゃんのスタンスとして、

1:子供にお金を持たせない

2:男の子に家事をやらせない

3:子供の本分は勉強と遊び

というのがあって、その為に父は本屋などには幼少の頃より出入りしていたが、スーパーや個人商店というものには縁の無い生活をしてきたのであった。

◇三つ子の魂100までもというが、見事にお祖母ちゃんの考えを刷り込まれた父は、スーパーで荷物を持ってくれる為に同道してくれる事はあっても、自らレジ並び、自分でお金を払ってくるなどという考えは一切無いのである。

◇そんな父にこの度新たなる試練が襲いかかった。母が帯状疱疹なる病気を患ってしまったのである。かつて、この母親は甲状腺炎なる病気で入院した事があった。その時にはかすみがフル回転で家の雑事を受け持ち、へろへろになりながらも奮闘したので、自分はお見舞いを毎日の様にしたり、近所のなじみのラーメン屋でご飯を食べたりするだけで済んだのである。実際、朝夕のご飯は勿論、お弁当までかすみが作っていたのだからとりたてて不自由は無かったのだ。

◇が、今回母は入院と通院で治療法は同じと聞くやいなや、「じゃあ通院にします」と言い放ったのである。こうなるとかすみの負担は嫌でも増える。入院していれば洗濯も病院内でやってくれる(お金はかかるけれど)、ご飯だって出てくる、けれど、家にいるのであればその分もやってあげなくてはいけない。しかも、前回の入院時にはわんこは1匹しかいなかったのが、今度は2匹もいるのだ。しかも後から家族になったごうたわんこはお散歩の時に引っ張るし。

◇で、父のお休みの数は多い。平日、かすみが会社に出かけると、病人と二人(+2匹)でお留守番となってしまう。自分一人ならばラーメン屋に行けば良いのだが、母が寝込んでおり、薬を飲むにはご飯を食べねばならない。とするとお買い物をしなくてはならないのだ。

◇夕方、かすみが会社から帰ると興奮した面持ちで父が出迎えてくれた。早速犬の散歩に行こうと言う。散歩中ご機嫌の父が、

「かすみ、今日な、お父さんすごかったんだぞ」

と言ってきた。

◇父がすごいのは常々痛感しているので、いまさら言われてもどうとも思わないのだが、父の興奮ぶりは並ではなかった。満面の笑顔でこう続ける。

「今日、一人でスーパー行って、うどんを買って、お母さんに作ってあげたんだ。すごいだろ」

◇父はうどんを買って、作ってあげちゃったんである。一人でお買い物、一人でうどん作り。全く想像が出来ない。レジでこれ下さいをしている父など、金輪際想像できんのじゃぁ。かすみが心の中で絶叫しているのも知らず、買い物なんて大した事じゃ無いんだな」と言い出す父。んじゃあ、

「じゃ、明日も行く?」

「何で?かすみがいるだろ。かすみの仕事を取ったら可哀想だろ」

◇可哀想ではありません。今のほうが全然可哀想です。どうして可哀想かというと、インスタントうどんが散乱している台所を片付ける仕事が増えたり、何故か転がっているキャベツを収納したり、大量の納豆を如何にして冷蔵庫に納めるか考えたり、無分別に突っ込まれたゴミを改めて分別しなければならないからでございます。しくしく。それに母が出来ない場合、家事はかすみの仕事と決め付けるのはどうかと思うのですが、どうでしょうか。確かに妹は職場がかすみよりは遠く、また、残業も多いのですが、だからと言ってかような扱いをするのは少々問題では無いでしょうか。しくしくしく。

◇こうして父のイベント、初めてのおつかいはかすみの知らない所でこそりと完了していたのであった。にもかかわらず、おつかいに行った事をその後の3日間、事あるごとに自慢するのは間違いだと思うのだが、父よ、どうであろうか?

教訓:男女に関わらず、子供のうちにおつかいくらいは経験させておくべきである。また、結婚後、未おつかいの旦那にはおつかいを経験させ、買った物はしまう所まで体験させるべきである。


前へ父とわたくしのTOPへ次へ