かすみ荘 - 父とわたくし:全く我侭
[もどりゅ]

ACT047:父と礼文島(2001.11.07)


◇ワンランク上の旅。北海道礼文島から最北の島々を望む。

◇上記の様なあおり文句の付いたパンフレットを父が渡して来ました。「北海道に行く事になるかもしれないからな」などといいつつ。この時、母は帯状疱疹なる病気で全治3週間を宣告され、父は靭帯損傷で全治3週間を宣告されていた。この夫婦は変なところもお揃いで、なかなか小憎らしい。

◇んで、父の靭帯損傷は、このワンランク上の旅ではさほど問題が無いが、母の病気は神経にばい菌繁殖というものなので、旅行そのものが危ぶまれるのだそうな。

「俺は見学だけして、徒歩コースをバス移動にすればいいんだけど、お母さんはそうもいかないだろ。ぎりぎりまでお母さんがいけるかどうかに賭けてみるから、キャンセルするのをやめたんだ。だからお母さんが駄目だったら一緒に行こう」

◇旅行まで10日を切っている。かすみの仕事の事なんぞ全く関係無い。

「うーん、仕事があるかもよ」

「大丈夫だ、休むのは月曜日だけだから」

うにゅう、確かに土〜月までだけどさ、そうじゃなくて開発屋さんなんだがな、かすみは。といっても、そんな理屈父には通用しないのだ。

◇ちょっと考えた。このままでは、父とわたくし、北海道でずっこけ旅行になってしまう。はっきりゆって、父と二人で泊まりで旅行なぞしたくない。過去に二人で行ったのは、かすみが幼稚園の頃のスキーくらいしか無いし、母と二人で出かけると、必ず父の我侭で喧嘩が勃発すると聞いている。もしも、かすみが結婚するなどというイベントが発生すれば、結婚前に一回はいいかな、とも考えるのだろうが、今回はそうではなく、純粋に補欠旅行なのだ。

「ううちゃん(妹)、誘えば」

「駄目なんだ」

◇何が駄目なのか聞いても答えない。いったい二人の間に何があったのか。とりあえずそれは置いておいて、父に一応おっけーを出した。まあ、了解せずにはいられない雰囲気だったんだけれど、母も心配そうに父の後ろからこっちを窺っていたし。

◇んで、後でううちゃんに聞いた所によると、父がううちゃんに「お姉ちゃんはちゃんと家の事をやってくれているのに、毎日残業は仕方ないにしても遊んでばっかりいる。少しは家の事を手伝え」なぞとほざいたらしい。そりは怒るわ。うにゅにゅう。ううちゃんは確かに残業が多いし、付き合いによる飲み会も多い。が、遅く帰って来ても、翌日の散歩には起きて一緒に行ってくれるし、毎回真夜中にお風呂を洗ってくれるし、遅くにご飯を食べる時は必ず翌日のご飯をタイマーセットしてくれるのだ。お父さんの見ていないところで大活躍をしてくれているううちゃん。

◇そんな訳で、父の大好きなううちゃんは怒っていた。怒っているので、お父さんとは旅行にいかないんだも、と言ったらしい。そりは怒るよね、やぱし。だいたい父も常日頃には物事の本質を見極めてうんたら〜などとほざいているんだから、自分の娘がどの様な動きをしているかくらい見ておけ。その目は飾り物なのか?いらないならくり抜いて銀紙でも張っておきなっ。とまぁ、そんな事を直接言う訳にもいかないもんねぇ。

◇ともかく、一応駄目だったらかすみが参加するという事で話はまとまった。心の底から、母の回復を願うかすみ。靭帯を切ってからこっち、父の我侭っぷりが激しくなってしまっているので、そんな父と出かけたくないと言うのが正直な所。そろそろ頑固ぢぢいの階段を昇り始めたか、父よ。出発の日まで、かすみのおさんどん生活は続いた。とにかく母に良くなっていただきたい。ちょっと二心あるのがあれであるが、それはそれ、これはこれ、あれなので気にしない。何とか母も痛いながらも普通より当社比0.6倍くらいの動きが出来る様になって来た。それまでは当社比0.2倍くらいだったので。実に素晴らしい回復力、すごいぞ、お母さん。がんばれお母さん。

◇実際、この脅威の回復力を一番喜んだのは他ならぬ父でした。大好きな、愛する、妻が、ぐんぐん回復している。ほとんど諦めかけていた旅行に、いけるかもしれないという希望。元を正せばこの旅行、母が渡った事が無い礼文島に連れて行ってあげたいという父の思いから申し込みしたものなのです。かすみが父と行くのが不本意であると同じく、父も母といけないのであれば、それはそれで不本意なのである。

◇で、旅行日程前日。母に体調はどうか、と聞くと、

「行かない訳にいかないでしょ。お父さん、もうお母さんと行く気になってるんだから」

さようでございますか。父よ、なぜかすみには何も言わない。行かなくてもいいよ、と。夕方の家事に間に合う様に、必死に仕事して、しかも月曜日に休むかもという話だったから、ずっと繰上げで仕事してたんじゃないかぁっ!しかも開発が目白押しで休憩だってろくに取らない毎日だったんだからぁぁぁぁぁ。と、吼えた所で父はきっと気にしないに違いない。だって、最愛の妻が無事だ〜か〜ら〜。

◇父の願いも叶って、礼文島に渡った夫婦は、無事2泊3日の行程を終え、いくらの瓶詰めなどと一緒に帰還したのである。ほんの、一瞬だけれど北方領土も見えたとか何とか。ともあれ、靭帯損傷ぶっちりの父は、病気中(完治した訳じゃないのだ)の母を散歩コースに無理無理歩かせ、自分は豪華りっむじ〜んバスで移動していたらしい。どうあっても母に見せたい風景を見せる、その心意気は素晴らしいが、母がその後、もいっかいひっくり返ったのが大問題であったのはいうまでもない。

◇それでもご満悦な父の顔を見ていると、子供が家を出て行った時に、母の命が危ないのでは、とちょっと警戒中のかすみなのだ。

教訓:自分が見て感動した風景は、相手の網膜に何としても焼き付けなければならない。


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