かすみ荘 - 父とわたくし:何の歌だったのか・・・
[もどりゅ]

ACT048:父と弟の歌(2001.11.16)


◇はるか昔、父が車の免許を所得したのは結婚して、かすみが生まれてからであった。役所の仕事は毎日さっくり定時にあがり、規定の時間をちょいとばかりオーバーし、どうにかこうにか免許をてにいれたのである。

◇父の運転テクニックであるが、取り立てて上手くは無い。どちらかというと下手なのかも知れない。かすみの友人なぞ、「君の父上の運転はちょいと剣呑だね、剣呑、剣呑」と評した事もある。勿論、実際にこんなふうには言った訳ではない。こんな風な話し方をする友人はいない。かすみがふざけてちょっとやるくらいだ。が、あまり通用しないのがちょっと寂しい。うう、友人よ、読んで下さい、江戸川乱歩全集を。あ、あと、平井何某様の訳したミステリー。

◇父は、もともと生まれつきのエンターテイナーではないかと思う。ただし、小さな舞台でのみだけれど。前にも書いているが、父はまじっしゃんなのである。あまちゅあまじっしゃんなのである。某明治大学のマジック同好会、まぎぃぐるっぺの会長だったのである。会長というより、怪鳥(鶴拳とかやったしね)だったのではないかという疑惑もある。そんな訳で、ウケるという事に結構な情熱を傾ける父である。しかも、ウケる為に日々の精進も行なってしまう父である。その情熱を上手い事利用出来ていれば、ちゃんと司法試験も・・・いやいや、もにょもにょ。

◇そんな訳で、剣呑な運転をする、エンターテイナーの父。これは父がまだ免許を取ってから数年の話である。

◇父はご機嫌で運転していた。この時の父のドライビングテクニックは、

1:10回に9回は車庫入れで失敗

2:右折一回で済む所を、思わず左折3回でクリア

3:時には二車線を豪華に使って走行

といった所で、よくもまあこんな人に免許を与えたものだと、今となってはかすみですらそう思う。どうですか、コマヤドライビングスクール様、二俣皮試験場様。

◇ご機嫌な父の後ろで、さらにご機嫌な我が愚弟、当時小学校低学年(確か)。反対側の後部座席にかすみ。助手席には母。父より母のほうが運転暦は長いし、しかもセンスがおよろしいので、本当ならハンドルを握っていた方が良かったのですが、いつまでもそうしていると、父の運転の技術は向上しません。免許をとったばかりの頃は、いつも父がメインで運転していたものです。

◇そのご機嫌な父の後ろで、別の見方をすればかすみの隣で、我が愚弟は声高に歌いだしました。

「う〜すら、とんかちぃ、うらうらうら、ち〜ら〜」以上、延々繰り返す。

◇ええと、ここで弁明しておかねばなりません。弟が歌ったのは、当時何かのテレビで見た、何かの歌です。決していつも電波が飛んで来ていて、弟を惑わしている訳ではありません。何の歌であったか、かすみにはわかりません。覚えていないのかも知れないし、興味が無かったのかも知れないし、早く忘れたかったのかも知れないのですが、ともかく、出展はわかりませんが、そんなふうに歌ったのです。

◇ここで、ハンドルを握っていた父は俄然盛り上がりました。勿論、車は一般道路を走行中なのです。盛り上がる必要はありません。ありませんが、ここで盛り上がってしまうのが父なのです。歌にあわせて小刻みにハンドルを左右にきり始めました。当時の我が家の車は二輪駆動で、小刻みにハンドルを切ったりすれば、ぶんぶんと車が左右に振れます。かすみは免許も持っていないし、車の事は全くわからず、つい最近までセダンというのは車の名前だと思っており、良くニュースで、

「犯人は白いセダンで逃走しており・・・」

などと聞くと、ああ、今回の犯人もセダンで逃げているんだ。セダン、大人気なぞと思っていたくらいだ。なので、二輪駆動ではなく、四輪駆動では如何様に動くのかは知らない。勿論、それが知りたいからと言って、四輪駆動の車のオーナーにハンドルを小刻みに動かせ、などとは言えないので違いは良くわからない。どうなのでしょうか、ドライバーの皆様。

◇ぶりぶりと左右に振動する我が家のセダン。後続車がいないので、調子に乗ってぶりぶりとハンドルを小刻みに動かす父。楽しくなって、さらに声高に歌う弟。面倒になって後部座席で寝転ぶかすみ。静止を求める母。

◇どうして、こう言う時に父は悪運に恵まれるのであろうか。ぶりぶりと車体を振りながら家まで戻ってくる我々。そのままバックで車庫入れである。いつもはここで父から母に運転を変わるのであるが、父は非常に真剣な面持ちで、車庫入れを開始し始めた。父としても、何時までも母に車庫入れを頼ってはいけないと思っていたのであろう。

◇が、

「う〜すらとんかちぃ・・・」

弟が歌いだしたのである。

「お父さんっ!」

◇母の静止は間に合わず、我が家のセダンは隣家のフェンスをべこっと、そして自身の車体におされな軽い傷をつけつつ、ぶりぶり動きを行ってしまった。

「あ〜あ」

自分でやったのにも関わらず、笑う父。こりはいけない。

教訓:車の車庫入れは慎重に行わなければいけない。


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