かすみ荘 - 父とわたくし:もうやらないで下さい。
[もどりゅ]

ACT064:父と小さな愛娘(2002.05.27)


◇昔々の事じゃった。横浜の片田舎に7人家族が仲良く、時には小競り合いを起こしつつ、平和に住んでおったのじゃ。ある夏の事じゃ。その年は本当に本当に暑かったのじゃ。

◇父は、イメージチェンジを図りたかったのだったと言う。少なくとも、それをした時、其処にいた人は「素敵ですよ」と言ってくれたのだそうな。状況として、言わなければおかしいのだ。何故ならば、其処にいた人は、父をその様にした人、なのだから。そして、そのイメージチェンジは成功したと言って憚らない、父は。そう、そりは負けず嫌いだから。

◇イメージチェンジを図った父は、当時30代。kasumiはやっととてとてと歩き出したばかりだったそうで、それでも基地の様に頭の良い子だった、と母は語る。その為なのか知らないが、現在では「あんなに頭が良かったのに、どうしてこうなっちゃったのかしら?」と言われるkasumiだったりする。それはね、kasumiが基地だったから〜。

◇さて、そんな可愛い愛娘にイメージチェンジを図り、格好良くなった己を見せる為、父は意気揚揚と家に向かった。途中、出会う近所の人々も「まあ、素敵ですね」と言ってくれるのだ。きっと家に帰れば愛娘がいつもの様にとてとてと玄関までお迎えに来て、自分を見た瞬間、「お父さんかっこいー」とまだ舌足らずな声で言ってくれるに違いない。先日の動物園で「らいおんさん、たてがみかっこいー」と言った時よりも、もっともっとお父さんの方が格好良いと思うに違いない。嬉々として玄関の扉を開ける。

 「ただいま〜。kasumi、お父さんだぞー」
 とてとてとて
 「お父さんおか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

◇家の奥からニコニコ笑いながら出て来た娘が、自分を見た瞬間、絶句し、のち、絶叫して、泣きながら走って逃げて行く。

 「kasumi、どうした、お父さんだぞ」
 「うわぁぁぁぁぁあ、お祖母ちゃぁぁぁぁぁん!」
 「kasumi、どうしたんだい。!、お前、どうしたんだいそれ」
 「いや、暑かったから」
 「うわぁぁぁぁぁあ、お爺ちゃぁぁぁぁぁぁん!助けてぇぇぇぇ!」
 「kasumiどうしたの。義母さん、何か・・・。あなた、どうしたの?」
 「お母さぁぁぁぁん!」
 「うぎゃぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

◇阿鼻叫喚である。姉のただならぬ絶叫に、乳児の弟も泣き出した。素晴らしい姉弟愛である。

◇父は、自分が巻き起こした事件を呆然と眺めたという。

◇いったいどうして、平和な我が家に絶叫が響き渡ったかと言うと、父のイメージチェンジが全ての発端であったのは此処に書くまでもない。そのイメージチェンジの内容であるが、父は、床屋に行き、余りにも暑かったので思い切って坊主にしてしまったのだ。つるつるの坊主、である。五分刈りとか、そういうものでなく、一厘も残さずに、つるっつるにしてしまったのである。それまで、五分レベルの短髪にした事も無かった父の頭は、くっきりと白かったらしい。顔は日焼けしているのに、頭は真っ白、そこに青々とした髪の毛の断面が見えるという状態だったらしいのだ。まだまだ小さな愛娘からすれば、顔に視線が行くよりも早く、頭に視線が行ってしまい、予想だにしないものを見てしまい泣くのも致し方無いと言えるのではないか。

◇その後、ばっちり娘に嫌われてしまった父は、家族の誰かが病気の時にしか買って帰らない福沙屋のカステラなどを買って帰ったりもしたのだが、髪がある程度に伸びるまで、娘が半径1メートル以内に寄って来なかった為にかなり凹んだという。

教訓:思い切ったイメージチェンジの前には家族の意見を伺え。


前へ父とわたくしのTOPへ次へ