かすみ荘 - 父とわたくし:次同じ事をしたらもう知らない
[もどりゅ]

ACT065:父と愛妻弁当(2002.05.27)


◇父と母はラヴラヴ恋愛結婚である。そして未だにラヴラヴらしい、父曰く。そんな父はラヴラヴ愛妻弁当を持って仕事に通っている。が、この愛妻弁当にも、一つのドラマがあったのだ。

◇そりは、父の職場が移動になった時に起こった。
 「今度移動になった先に、食堂が無いんだよな」
ほふぅ、とため息をつく父。
 「そういえばお父さん、お弁当持っていって無いよね。どうして?」
 「それは、お母さんに聞いてくれ」

◇そうなのである。子供はお弁当持参などをしているのだが、父は役所の食堂でご飯を食べているのである。てっきりお弁当箱を持って歩くのが嫌だから、という理由だと思っていたのだが、父の顔を窺うとそうではないらしい。当時、kasumiは高校生。確か、kasumiが小学校低学年の頃は父はお弁当を渡されていた気がする。

 「お母さん、お父さんにお弁当を作ってないのはどうして?」

◇その質問を受けて、母ははふぅっとため息をついた。

◇新婚当初の事である。母は愛する父の為に、そりはもうラヴラヴ愛妻弁当を気合を入れて作っていたのだそうな。どりくらいラヴラヴかというと、海苔ではぁとまぁくを入れてしまう位だ。母よ、そりはちょっと恥ずかしいぞ。しかも、どす黒いはぁとまぁくとは新手の嫌がらせではないのか?ともかく、毎日毎日お弁当を作っていたのだそうな。

◇そんなこんなで7,8年も過ぎた頃、母の不満が大きくなっていた。父はお弁当箱を出す時に、いつも無言だったのだそうな。たった一言、「美味しかったよ、ごちそうさま」と言って欲しい。母はそう思ったのだけれど、そりは母から聞いて言わせるのではなくて、父が自発的に言ってくれないと意味が無いのだそうな。うみゅ、女心である。が、父は毎日無言。ご馳走様も無いのだ。普段のご飯はご馳走様を言うのに・・・。

◇ついに母は父にこう聞いた。
 「どうしてお弁当を作っても何も言ってくれないの?美味しくないの?」
 「いや、そんな事ないよ。でも、心の中で毎回言っているし、わざわざ声に出して言わなくても解るだろ」
 「でも、作る方としては言って欲しいじゃない」
 「じゃあ、要らない」

◇父も母も頑固なのである。父に言わせれば美味しいのも作って貰っているのも当たり前に感謝しているから、わざわざ口に出さなくても妻ならわかるだろ、という事だし、母からすれば一言で済むのだから言ってくれても良いじゃないか、となる。どちらも譲らない、それ以来、父は食堂でご飯を食べる様になったのだそうな。10年近くも。

◇うみゅう、あまりといえばあまりに阿呆な話である。何が楽しくて、仲良し夫婦にも関わらず10年近く前の事件を燻らせているのか。
 「お母さん、私からお願いするからお父さんにお弁当を作ってあげて下さい。お父さんも今から作ってもらえばありがとうっていえるでしょう?食堂も近くにお店も無い所で働いているんでしょ?私がお母さんにお願いする。それから、お父さんに当たり前かも知れないけれど、美味しかったら美味しかったって言う事をお願いする」
 その阿呆な話を打開すべく、kasumiは両親に頭を下げた。何で私が、という話もあるが、ま、そりは良いのだ。kasumiの頭で、父母の仲がより良くなるのであれば、5,6回くらいなら下げても良し。それ以上は疲れそうなので止めておく。

◇翌日、久しぶりに父はお弁当を鞄に仕事に向かった。kasumiが学校から帰って、お弁当箱を出すと、母が心配そうに言う。
 「今日は、ご馳走様って言うと思う?」
 「言わなかったらもう作るの止めた方が良いと思うけど」

◇父が帰宅し、鞄からお弁当箱を出す。
 「ご馳走様。美味しかったよ」

◇ここで終わると心温まる展開であるが、やはり、父は父である。
 「弁当箱、ちゃぁぁぁぁぁぁあんと洗っておいたから、感謝の気持ちだから、お箸も洗ったから、給湯室で洗剤で洗ったから、手間を減らしておいたから。俺が洗った方が綺麗なんだよな」
 小さな声で母が呟く。
 「じゃあ、食事の時も全部洗え」

◇現在、父は仕事のたびにお弁当を持っていく。食堂のある職場に移動しても、お弁当の方が美味しいのだそうな。母は、 「あの時、kasumiちゃんの言う事を聞かなかったら、こう何年も弁当を作り続けなくても良かったのに」と時々言う。そして父は毎回「美味しかったよ」と言う。どちらも、kasumiの顔を立てているのだそうな。何でそう、意地を張るかな。

教訓:ご馳走様は言っておけ。


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