かすみ荘 - 父とわたくし:欲しい方にはプレゼント
[もどりゅ]

ACT079:父と陶芸(2005.06.11)

◇暇である。暇なのである。というか、閑。囚人閑居して不善をなす、までは行かないまでも、閑になると何かしないではいられない父である。仕事を引退したら、好きな庭仕事に性を出すんだ〜、などとのたまっていたのだが、庭仕事だけでは時間が余ってしまうのだ。

◇父としては、余った時間を愛する妻と楽しく語らったりしたの、らしいのだが、母にしてみれば別段語らう事など無いのであり、しかも父が持ち出す話題は蘊蓄だったり、パソコンの使い方だったり、自分が興味のある事ばかりで、母からすれば興味の無い事である事が多いのだ。例えるならそう、父はテレビがどうやって離れた所の映像を送るのか知りたいと思うタイプで、母は原理はともかく見られれば良いというタイプなのです。

◇そんな訳で、仕事をしていた時にちょっとだけ関わった公共の陶芸所に通い始めたのです。そこには父のお友達も通っており、しかもお友達は現役の頃から通っていたそうで、ちょっとした先生レベルになっているらしい。口では「〜さんにはかなわないよ」と言っているのだが、負けず嫌いの父であるからして、本心からそうかはわからない。

◇そんな陶芸の上達に向けて、
 「お茶碗を100個作るの?」
 「違うぞ、湯飲み茶碗を100個だ」
何やら得意げにお茶碗だか湯飲み茶碗だかわからない物質をこねくり回しながら言う父。
 「それもその一つ?」
 「これは違う。これは試作のてびねりだ!」
てびねりですか。そうですか。
 「蕎麦猪口にも見えますね」
 「そうか?確かに蕎麦猪口にも見えるな。よし、これは蕎麦猪口だ、そのつもりで作った」
息を吐くように嘘を吐かないで下さい。
 「100個の湯飲み茶碗を作る前の段階が、このてびねりだ。ほーらこんなに」
10個近くありやがります。

◇しばらく話が出なかったので、100個の湯飲み茶碗の事など忘れてしまった頃、実家に遊びに行くと満面の微笑みを浮かべた父が目の前に湯飲み茶碗を10個ほど置いた。
 「どれにする?2個持って行って良いよ」
ふおおぉぉお!湯飲み茶碗ですか。
 「夫婦湯飲み茶碗だから2個ね。けんぽんの家にも夫婦用渡したから。これなんか結構綺麗だよ。最近作ったやつかな」
父の後ろで張り付けたような微笑みを見せる母。わかってますよ、大丈夫です。
 「うわあ、選び放題で嬉しいな」
 「そうだろう。これなんかどうだ?これとこれは似ているし、大きさも大小になってセットっぽいぞ」
 「じゃあそれにしようかな」
 「最近はあちこちに持って行っているんだ。プレゼントもしてるし」
被害甚大。

◇さらに父はこう続けた。
 「目力ちゃんは結婚してないから夫婦湯飲み茶碗はいらないけど、この100個訓練が終わった後に、結婚式の引き出物用をたくさん作ってあげられるんだ」
そ、そりは、親切、な・・・。

◇そのうち飽きるかなと思っていたが、退職後に初めて早2年ほどになるだろうか。実家の湯飲み茶碗物資はざくざくと増加の一途を辿っている。これはもう、結婚式の引き出物にするしかないだろう。って、嫌ですか、そうですか。目力妹よ。

教訓:老後の楽しみには、周囲の強力も必要だ。

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